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JAXAが目指す「エミッションフリー航空機」実現への道筋

近年、航空機の二酸化炭素(CO2)排出削減が世界的に重要な環境課題となりつつあり、エンジンの電動化も将来技術の有力候補として注目を集めている。かつてはバッテリー、インバーター、モーターなどの電動要素は重量が大きすぎて航空機の推進系に適用することは困難であったが、現在は技術進歩のおかげでその可能性も視野に入ってきた。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)航空技術部門次世代航空イノベーションハブでは、産学官連携のもと、世界に誇る国内の電動要素技術などを航空機技術と融合し、電動化技術を核に新規航空産業を創出するため、「航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアム」を2018年に設立した。

旅客機の推進系電動化を30年代には実現し、最終的には抜本的にCO2排出削減が可能な「エミッションフリー航空機」を目指す将来ビジョンを策定・共有した。

JAXAでは旅客機の推進系電動化に向け、カギとなる主要技術の研究開発を進めている。

【燃費削減重要】

電動化の重要な役割は燃料消費の削減であり、電動要素の搭載による重量増加や発熱による損失よりも電動化による利得が上回ることが必須であるが、JAXAは主に後者の技術として、BLI(Boundary Layer Ingestion)などを中心とした全機システムの性能解析やCFD(数値流体力学)を活用した空力設計を実施している。特に、電動ファンという航空機にとって全く新しい要素をいかに最適にレイアウトするか、そのために生じる新しい課題をどのように解決して航空機として成立させるかなどについて検討するとともに、並行してこれらの技術を統合化して電動ハイブリッド推進システムの実証を行う計画についても現在検討中である。

また、最終的なエミッションフリー航空機に向けて、水素を燃料とし、固体酸化物型燃料電池(SOFC)とガスタービン(GT)エンジンを融合したSOFC―GT複合サイクルシステムについても、小型の試験装置を試作して研究を進めている。

【国際競争力】

これらの研究活動を実施するにあたり、各電動要素に関しては、航空機電動化コンソーシアムのメンバーと協力して航空機に適用するための研究開発に取り組んでおり、わが国として国際競争力のある技術の強化を目指している。

◇航空技術部門 次世代航空イノベーションハブ エミッションフリー航空機技術チーム ハブマネージャ 西沢啓 03年JAXA入所。空気抵抗低減、流体制御などの研究開発に従事しつつ、04年より航空機電動化の研究開発に携わる。FEATHER事業プロジェクトマネージャを経て、エミッションフリー航空機技術の研究に従事。博士(工学)。
日刊工業新聞2021年8月2日

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