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トヨタが学術界とタッグ、研究者に生活支援ロボを無償で貸し出す狙い

トヨタが学術界とタッグ、研究者に生活支援ロボを無償で貸し出す狙い

WRS2020でプログラム実装中のHSR。大学院生らがAIを実装して家庭での仕事に挑戦中

日本ロボット学会とロボカップ日本委員会、トヨタ自動車の三者は、より開かれたロボット研究者のコミュニティーを実現するため、トヨタの生活支援ロボット「HSR」を学会から研究者に無償で貸し出す仕組みを構築する。人工知能(AI)技術や情報系の研究者など、ハードウエアに明るくない研究者がHSRを用いて研究できるため、ロボット研究の裾野が広がる。よりオープンな研究環境を提供することで自由闊達(かったつ)な研究を促す。

従来はトヨタとHSRを借りる研究者がそれぞれ共同研究契約を結んでいた。HSRをトヨタからロボカップ日本委員会に無償で一括貸与し、同委員会から各研究者にHSRを貸し出す。新方式で知的財産や契約手続きなどを簡略化でき、研究者はHSRを活用しやすくなる。

研究テーマは日本ロボット学会の研究専門委員会が選考する。従来はトヨタと各研究者の1対1の契約関係だったが、トヨタは研究コミュニティーの構成員の一員としてフラットな関係で研究に関われる。2022年4月から新しい運営に移行する計画だ。

背景にはHSRを研究に使うシミュレーションやツールが充実したこと、HSRを使ってきた研究者が起業するなどして研究を支援する産業的なインフラが整ってきたことがある。トヨタが15年に研究用HSRの提供を始めて約6年がたち、トヨタが機体や技術サポートをすべて提供しなくても、研究コミュニティーが自立するようになってきた。

世界では大企業が学術界を支える取り組みがあるが、計算資源や大量データ、懸賞金など、手離れのいい研究資源を提供する例が多い。人も時間もかけてコミュニティーを育てた例は極めて珍しい。

日刊工業新聞2021年9月22日

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