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部品不足がトヨタを直撃、サプライヤーが大幅減産で不安視すること

部品不足がトヨタを直撃、サプライヤーが大幅減産で不安視すること

生産現場では増産に備える動きが目立つ(トヨタ九州・宮田工場の「レクサス」生産ライン)

自動車各社に大きな打撃を与えている半導体や部品不足がトヨタ自動車にも直撃した。サプライチェーン(供給網)の強さで生産を維持してきたが、9月は当初計画の4割にあたる36万台という大幅減産に踏み切る。ただ2021年度の生産計画は据え置き、10月以降は元々想定していた高水準の生産を維持する方針。取引先部品メーカーからは減産への戸惑い以上に、急激な挽回生産への備えを不安視する声が漏れる。

「まさに急転直下だった」。トヨタから上方修正した新たな年間計画が示されて1カ月もたたない8月19日に公表された減産方針。部品各社からは驚きの声が相次いだ。主な原因は東南アジアでの新型コロナウイルス感染拡大に伴う部品の不足だ。トヨタの熊倉和生調達本部長は「直前まで現地の状況を日々細かく確認しながら稼働継続を検討してきた」と明かすが、感染症の勢いもあり急激かつ大規模の減産に至った。

車業界の“戦略物資”となった半導体調達は一部影響があるが、おおむね維持している。数カ月分の在庫を持つなど、10年前から積み重ねてきた事業継続計画(BCP)対策の成果だ。あらゆる手を尽くしており「規模と資金力のあるトヨタさんだからできること」との恨み節も聞かれる。しかし「今はモノが逼迫(ひっぱく)し、十分な在庫を持つほどの余裕はない」(トヨタグループ幹部)。気を抜けない状態は続く。

減産は株価を下げるなど衝撃を与えたが、苦しい状況で生産を維持してきたトヨタと、その供給網に対する評価は高い。そんなトヨタは21年度の計画を据え置き、10月以降は高水準の生産見通しを内々に示している。好調な販売や受注残の多さから、22年は「さらなる増産基調では」との話題も飛び交う。

取引先からはコロナ禍での増産を喜ぶ半面「急激な増産に対し、生産体制をどう作っていくか悩ましい」(内装部品メーカー幹部)と、不安の声が上がる。

先の計画に合わせて作りだめていた部品メーカーもあり、地元・愛知県では「置き場がなく倉庫の取り合いになっている」(金属部品メーカー)。他の部品メーカーも「東南アジアの状況が見えない。どこまで備えればいいのか」と悩む。

一方、半導体不足で減産を迫られた他の車メーカー。スズキの長尾正彦取締役専務役員は「(供給網の)どこでどんな影響が出てくるのか、毛細血管のように追いかけられなかったところもある」と反省する。生産変動は供給網の経営リスクに直結する。ホンダと取引が多いサプライヤーの幹部は「秋以降の挽回に備え材料や人手を確保しているが、計画通りいくか不透明」とコスト負担を懸念する。生産計画の確かさも各社の備えを左右する。

そこで調達を見直す動きが出始めた。スズキは半導体に関わる供給網を可視化する仕組みを構築。1次取引先とは数カ月単位での半導体在庫の確保や、契約期間の長期化に向けた協議を始め、半導体関連部品の設計の汎用化も検討する。ホンダの倉石誠司副社長は「長期的には部品の共有化、汎用化や仕様の変更、調達先の拡大などを検討している」と明かす。

日産自動車も部品メーカーとの関係強化に乗り出す。取引のなかった部品メーカーが参画しやすいよう、新型車向けに共同開発したものの採用に至らなかった部品の開発費用を負担する意向を示しているという。トヨタも「足元を乗り切るだけではいけない」(幹部)と長期で見直し続ける方針だ。

調達網の維持や、生産変動の抑制、精度の高い見通し―。各社は大きなテーマに向き合っている。

(名古屋・政年佐貴恵、西沢亮、名古屋・山岸渉、江上佑美子)


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日刊工業新聞2021年9月2日

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