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損保は?生保は?「脱炭素へ」保険業界が挑むそれぞれの貢献策

損保は?生保は?「脱炭素へ」保険業界が挑むそれぞれの貢献策

東京海上日動は再エネ主力電源化の“切り札”として期待される洋上風力発電の普及に取り組んでいる

保険業界が2050年カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現への姿勢を強めている。損害保険会社は再生可能エネルギー事業者向けの保険提供や独自の脱炭素支援策を本格化。生命保険会社では世界的な潮流であるESG(環境・社会・企業統治)投資が加速する。“世界人類史の共通テーマ”ともいえる持続可能な社会への転換に、裾野の広い保険業界の貢献が欠かせない。(増重直樹)

損保 再生エネ後押し

経済産業省・資源エネルギー庁が7月に公表した「エネルギー基本計画」の素案では、30年の電源構成に占める再生エネ比率を36―38%とした。再生エネの主力電源化の切り札として期待されるのが洋上風力発電だ。エネルギー政策に限らず、構成機器や部品点数が数万点に上り関連産業への経済波及効果も大きい。経産省は8月31日、30年度までに洋上風力発電の低コスト化を進める事業に上限1195億円を投じる方針を決定。洋上風力発電の本格普及に向けた機運が高まっている。

東京海上日動火災保険 洋上風力、切れ目なく補償

損保各社が再生エネ普及を後押しする商品開発を進める中、東京海上日動火災保険はこれまで欧米など10の国・地域で40以上の洋上風力発電事業に参画、実務レベルの保険引き受けを重ねてきた。20年には建設から運用まで切れ目なく補償する「洋上風力パッケージ保険」を販売。再生エネ事業に特化した保険引き受けのリーディングプレーヤー、英GCubeを数十億円で買収するなど、再生エネ普及に積極的に取り組む。

21年4月には複数の洋上風力発電プロジェクトにまたがる集積リスクを評価する独自の手法を展開。海象条件が日本と近い台湾でのプロジェクトに参画した知見を基に、地震や台風が頻発する世界でも珍しい国内の自然災害事情を考慮したリスクを算出する。保険会社はリスクが巨大で単独引き受けが困難な場合、共同保険の形を取る。日本特有のリスクアセスメントで、海外の保険会社も引き受けの検討がしやすくなり、結果的に運営事業者に手厚い補償を提供できるようになる。

小林宏章船舶営業部海洋開発室長は「国内の洋上風力産業は大きく発展を遂げようとしている。海外での引き受け経験を生かしてリスクマネジメントの観点から貢献したい」と強調。30年までに20件程度の受注を目指す方針だ。同年には2000億円の市場規模が見込まれる洋上風力マーケットを取り込む構えだ。

三井住友海上火災とあいおいニッセイ 太陽光導入費用など特約、被災企業の復旧

MS&ADホールディングス(HD)傘下の三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険は、8月下旬に「ビルド・バック・ベター(創造的復興)」の考えを取り入れた火災保険特約を販売した。国土交通省がまとめた19年の水害被害額は2兆1800億円となり、1年間の被害額として61年の統計開始以来最大となった。自然災害の脅威が高まる中、被災後の復旧タイミングで企業に脱炭素化を推進してもらうのが創造的復興のコンセプトの一つだ。

具体的には被災建物の復旧時に、二酸化炭素(CO2)排出量の削減につながる設備や技術の導入にかかる追加費用を補償する。例えば屋根の復旧時に太陽光発電設備を新設するケースや、CO2排出量が少ないバイオエタノール燃料を用いる自家発電設備の導入などが対象になる。

販売後3年間で500社超(両社合算)の契約を目指す。特約保険料は支払限度額などの条件で変わり、一般に200万―1500万円程度になる。当初は大企業をメーンターゲットとするが、補償額の細分化などで中小企業も加入しやすい仕組みを検討する。

損保ジャパン 有機廃棄物を活用、エネ生成装置実証

保険商品以外の手段で脱炭素社会の実現を目指す動きも顕著だ。損害保険ジャパンは業務提携するサステイナブルエネルギー開発(仙台市青葉区)と、有機廃棄物からエネルギーを生成する装置を利用した新規事業の創出を試みている。亜臨界水処理技術で本来ならゴミとして廃棄されていたプラスチックなどの資源をエネルギーとして再生する。

サステイナブルエネルギー開発のシステムは、破砕や亜臨界水処理などのプロセスを経て有機廃棄物から炭化ペレットを生成できる。炭化ペレットで石炭火力発電を100%バイオマス化できれば、電力供給を受ける企業は事業で使う電気の全量を再生エネ由来に切り替えられる。ただこれは長期的展望で、まずは災害時に発生するゴミを発電に利用し、避難所の運営支援などを進める。

初号機の完成に合わせ6月には長野県諏訪市で実証実験を実施。ホクトやセイコーエプソンも参画し、きのこ培地と使用済みインクカートリッジを原料として提供した。損保ジャパンの担当者は「装置の有用性を確認できた。今後は企業や自治体から要望のある装置の小型化に応えられるよう、製品ラインアップを拡充したい」と話す。損保ジャパンは装置の販売に伴うコンサルティングや炭化ペレットの販売などで収益化につなげる考え。

生保、ESG投資を加速 第一生命と日本生命、CO2排出ゼロに貢献

世界持続可能投資連合(GSIA)が7月に発表した20年のESG投資額は約3900兆円となり、18年から15%増えた。世界の潮流と歩調を合わせるように、機関投資家である国内大手生保もESGを重視する投資を加速している。

第一生命HDはESGの累計投資額を19年度末の5500億円から23年度末までに倍増する。稲垣精二社長は「グリーン投資や環境問題にイノベーションを起こせる企業への投資を継続する。運用方針で脱炭素を約束することが大事」と指摘。契約者から預かる保険料の運用は、透明性を高くすることが重要と説く。7月には日本郵船が国内で初めて発行した脱炭素社会への移行を目指すトランジションボンドに投資した。

最大手の日本生命保険は4月に全資産の投融資プロセスに、ESGを組み入れるESGインテグレーションを開始した。19年度実績で投資先企業から排出されるCO2の総量は約1000万トンに上るという。対話やテーマ型投融資といった手法を駆使しながら、投資先企業のCO2排出量を実質ゼロにすることを目指す。ESG評価が高い銘柄は投資リターンが高いことも立証されており、ESG評価を組み入れる投資手法は拡大の兆しがある。

日刊工業新聞2021年9月2日

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