電力会社がAIを活用した気象予測プラットフォームを構築へ
市場で高く売る
電力会社と気象は切っても切れない関係にある。暑さ・寒さが厳しくなると電力消費が増えるため、気象予測から発電計画を策定するのは基本だ。Jパワーは気象予測を発電機会を逃さないために使う“守り”の活用に加え、人工知能(AI)を使った気象プラットフォームを構築し、再生可能エネルギー発電を最適タイミングで稼働させ収益向上に直結させる“攻め”の活用に挑戦する。
「根底にあるのは電力自由化。曇って太陽光発電が下がるタイミングで他の発電量を増やし市場で高く売る」(デジタルイノベーション部プロジェクト室の森田和敏氏)。これが基本だ。
気象プラットフォームは2段階で活用する。2022年度に始めるフェーズ1では、気象予測の精度を向上させ需要予測や発電計画のレベルを上げる。23年に向け準備に入るフェーズ2では、全国にある他事業者の太陽光発電所の気象予測を行い、いつ発電量が下がるかを推測、そのタイミングで自社の水力発電所を稼働させる。
場合によっては同地域の風力発電は出力を抑制し、最も低コストで発電量が最大になるよう調整する。「いつ、どの発電所を稼働すれば、あるいは抑制すれば利益が最大化するかは経営判断そのもの。それを後押しする気象プラットフォームだけに十分な精度が必要」(同)とする。
データ蓄積
利用するデータは降雨、風速、風向、気温と湿度。気象庁などの国内データに加え、米NCEP、欧ECMWFなど世界の機関からも購入する。過去データも含め年間で20テラバイト規模のビッグデータを蓄積、AIで解析する。米国で開発されたWRFという気象モデルを使い、予測領域を地球規模から発電所のある地域に段階的に絞り込む。現在、各部門で必要な予測範囲や予測期間を調整している。
実績の差解析
同時に各気象機関の過去の予測と実績の差を解析し「『この機関は台風の速度は慎重に出す』など予測の傾向やブレ幅も計算し、自社の気象予測に反映させる」(デジタルイノベーション部プロジェクト室の服部啓之氏)考えだ。各部門には生データも開放し、水力部門が雪解け水量や地面へのしみこみ方といった計算モデルと合わせて使うなど、独自の利用も可能にする。
近年、地球温暖化の影響で大水害が頻発し、国は19年に河川の氾濫を防ぐため利水ダムの治水利用を決めた。ただ電力会社にとって、発電を伴わない放流は燃料を捨てることに他ならない。気象プラットフォームで上流の降雨量を予測し、事前に放流して発電できれば、利益を損ねず防災に貢献することも可能になる。(編集委員・板崎英士)