明日発足の「デジタル庁」。重要プロジェクト「ガバメントクラウド」の意義と懸念

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維持管理の“重荷”解消

9月1日にデジタル庁が発足する。同庁が重要プロジェクトと位置付けるのが「ガバメントクラウド」だ。ネットワーク経由で記憶装置やソフトウエアを提供するクラウドを活用して地方自治体の基幹業務システムを標準化し、行政サービス向上とコスト削減を狙う。クラウドへの移行期限が短いといった課題を乗り越え、維持管理に偏っているシステム関連費用の質を変えられるかが試される。(編集委員・斎藤弘和)

クラウド化の意義 変化に柔軟なシステム、“攻め”のIT投資へ

「維持管理コストが非常に高く制度変更や特別な事態に対応できないシステムから、変化に対応できるシステムへ変える。アーキテクチャー(設計概念)変更の上で、最良の手段の一つがクラウド技術だ」―。平井卓也デジタル改革担当相は、ガバメントクラウドの意義をこう説明する。

政府は地方自治体が使う17の基幹業務システムについて、2025年度末までにガバメントクラウドへの移行を目指している。従来、各自治体はシステムを個別に構築・運用する事例が多かった。クラウド上で共通のハードウエアや基本ソフト(OS)などを使うことで、調達費用の低減につながる。

制度改正に伴う自治体側の負荷も減りそうだ。自治体の情報システムに詳しい渋田裕司野村総合研究所(NRI)上級システムコンサルタントによると、「(17の業務に含まれる)地方税や、介護・福祉といった業務は、毎年のように制度改正がある。それに対応するためのシステム改修は財政的にも人的にも、かなりの負担になっている」という。クラウド上ではアプリケーション(応用ソフト)を共同利用するため、各自治体が個々に改修する手間は軽減される。

コスト削減の結果として期待されるのは、“攻め”のIT投資への転換だ。日本では政府のIT関連予算の大部分が既存システムの維持管理に投じられるなど、“守り”の様相が濃かった。地方自治体でも守りの経費が減れば、新たな行政サービスの実現に向けた攻めの余力が生まれる。デジタル庁は、こうした構造改革を「1丁目1番地」(平井デジタル改革担当相)と位置付ける。ガバメントクラウドは、変革の成否を占う試金石でもある。

移行時期厳しい 標準仕様書の作成難航も

ただ、ガバメントクラウドへの移行目標時期は厳しいとの指摘が多い。総務省からNTTデータ経営研究所(東京都千代田区)に転じた河本敏夫アソシエイトパートナーは、「25年までに17業務を全ての自治体が標準仕様に移行することは無理だろう」と分析。内閣官房IT総合戦略室の担当者も、「スケジュールやリソース(人的資源)を心配している団体があることは知っている」と認める。

17業務のうち、住民記録システムの標準仕様書は20年9月にまとまった。残り16業務は今夏から来夏に標準仕様書を策定または見直す計画だが、独自の機能を構築・運用してきた自治体との調整が難航する可能性もある。「住民記録の場合は比較的、事務が(各自治体間で)共通している部分が多い。だが他の分野は、システムの作り込みをかなりしている場合がある」(総務省自治行政局)。

また、機能の検討以外に、期待した処理性能の発揮や、セキュリティーの確保ができるかといった非機能要件の検証も求められる。

先行事業での調整が重要

一連の懸念の解消に向けてカギを握るのは、内閣官房IT室が準備中の「先行事業」だ。ガバメントクラウドへの移行に関する課題の検証を21―22年度にかけて行う。だが、当初は7月とされていたクラウド提供事業者の決定は、9月以降にずれ込む見通し。8月下旬時点ではIT室が調達や契約の方式を検討中であり、遅れが大きくなれば先行事業に水を差しかねない。

スケジュールが厳しい中でも留意すべきなのは、業務改革(BPR)の視点だ。既存システムを単純に移行するだけでは、非効率な業務がそのまま残ってしまう。ガバメントクラウドをはじめとするデジタル化は、行政の効率化と住民サービスの向上のために行われる。デジタル化自体を目的にしないよう、政府には広範な関係者への啓発が求められる。

インタビュー/デジタル改革担当相・平井卓也氏 費用を投資に変える

平井卓也デジタル改革担当相に、ガバメントクラウドの意義や利点などについて聞いた。

―デジタル庁の発足が近づいてきました。

「規制改革の象徴かつ成長戦略の柱になる組織を目指し、スタートアップを立ち上げるような感覚でここまで来た。大きな目標に向けた第一歩を踏み出せることに責任とやりがいを感じている」

―ガバメントクラウドの位置付けは。

「今まで政府の約8000億円のシステム関連予算は、5000億円が維持管理、残りは制度改正に伴う改修だった。これらは費用であり、結果は現状維持でしかない。デジタル庁は費用を投資に変える。国民の利便性を上げたり、レジリエント(弾力的)な政府システムをつくったりするツールの一つが、ガバメントクラウドだ」

―関係者の意識改革が求められそうです。

「役所が苦手な分野だ。システムを作り直すことは、現状の否定から始まる。心構えを変えないと新しいものにならない、という考え方を共有したい。地方の皆さんは、東京一極集中をフラットにするチャンスだと捉えてほしい。(ガバメントクラウドの整備に伴って)ある自治体の成功事例を全国に広げられる機会が常に出てくる」

―一般論で言えば、クラウドに障害が起きると利用者全体に影響する懸念があります。

「(各自治体が)独自に用意している(現行の)システムと比較して、クラウドのデメリットはない。バックアップ(予備保管)も十分に考えている。逆に、今のままの方がリスクは高い。一つの自治体でそこまでのバックアップはできない」

私はこう見る

現行システムとの連携カギ

NTTデータ経営研究所アソシエイトパートナー・河本敏夫氏

ガバメントクラウドで一部のサービスが提供されたとしても、自治体はそれだけを利用すれば業務ができるわけではない。(クラウドへの移行対象にならない)元々のシステムとの連携が結構、難しい。そこがうまくいくかどうかが問われるので、先行事業で検証しようと言われている。先行事業は、いろいろな課題を洗い出してつぶすための仮説検証サイクルとして位置付けることが大事だ。

自治体が接続するネットワークのあり方も重要。今はクラウドのアプリの部分を中心に話がされているが、将来は自治体や国の間でのデータ連携も行いたいはずだ。それに伴いネットワークの環境も変わってくる。(談)

自治体の創意工夫、考慮を

野村総合研究所上級システムコンサルタント・渋田裕司氏

ガバメントクラウドへの移行に関する自治体の意見は二極化している。中小(規模)の自治体は財政的余力がなく、パッケージシステムを改変せずに使っている場合もある。そういう団体は、移行を不安視していない。

一方で、中核市などではデータの変換や移行後の検証を考えるとあまり時間がない、と捉えているところが多い。移行時期の目標はかなり厳しく、大きな団体ほど早く始める必要がある。

国民健康保険や介護保険など、社会保障系の業務で独自に住民サービスを向上させてきた自治体もある。標準化によるコスト圧縮は必要だが、自治体の創意工夫を標準準拠システムに取り込む姿勢は求められる。(談)

日刊工業新聞2021年8月30日

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