AIでタイヤ構造を見える化!住友ゴムのコア技術がスゴイ。
長寿命化、センシングなどタイヤの性能向上や、周辺サービスの開発に力を注ぐ住友ゴム工業。その実現を支えるコア技術の一つが、2019年に開発したタイヤ用ゴムの構造解析技術「タイヤリープAIアナリシス」だ。同技術は、タイヤ用ゴムの電子顕微鏡画像や材料情報を基に、物性を高精度に推定する。使用前後の構造も比較でき、分析時間や負担の大幅削減に貢献するほか、製品の高性能化にも貢献する。
長寿命化
タイヤ用ゴムの構造の把握は、さらなる長寿命化など製品の価値向上に欠かせない。しかし、人工知能(AI)開発を担った研究開発本部分析センターの三好和加奈課長代理は「構造は非常に複雑。一見しただけでは違いが分からない」と語る。
タイヤ用ゴムは天然ゴムやポリマー、シリカなど10種類以上の材料を混ぜて作り、同じ材料でも混ぜ方によって性能が変わる。材料が均質に並ぶと性能がよくなるが、構造の特徴を判別できるようになるには数年かかるという。観察する角度や人により、解釈や精度に差が出る点も課題だった。
これらの解決に向けて5、6年前にAIの開発を開始。一つの製品を複数の角度から撮影したものも含めて、数万点の電子顕微鏡画像を学習させて、物性を推定する仕組みを確立した。
差異を検知
使用によるタイヤの構造変化を見える化できるのも特徴。使用済み製品の顕微鏡画像を入力すると、AIが使用前との差異を検知して色で示す。画像を比べると表面だけでなく、内部にも変化の痕跡があることが分かる。
これは路面の凹凸で表面が大きく変形して内部に熱が生じ、シリカなどの配置が変化した跡。表面の摩耗が進み、内部の変形部分が表に現れるとタイヤの性能が変わる。
新素材採用
19年発売「エナセーブネクストIII」の開発にタイヤリープAIアナリシスを用いた。ウェットグリップ性能の低下が起きる仕組みの解明に貢献。同製品は新素材の採用などで、2万キロメートル走行時のウェットブレーキ性能の低下を従来製品比半減させることができた。岸本浩通分析センター長は「AIがなければ新素材採用の案は出なかった。活用の効果は計り知れない」と語る。
大手を中心にタイヤの高付加価値化が進んでおり、AIのさらなる活用が見込まれる。一方、企業単独でできることには限界がある。タイヤリープAIアナリシスの開発では北海道大学の長谷山美紀教授と連携した。今後も大学や研究機関と協力して、材料解析技術などを向上させていく。(国広伽奈子)