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政府が新計画をスタートさせた人材育成「ESD」って何?

政府が新計画をスタートさせた人材育成「ESD」って何?

企業による市民向け講座もESD活動(三井住友海上火災保険の子ども向け生物学習会)

政府は「持続可能な開発のための教育(ESD)」を推進する国内実施計画を改訂し、新計画をスタートさせた。ESDはなじみが薄いかもしれないが、新計画は持続可能な開発目標(SDGs)達成に貢献する活動として位置付けた。学校や学生だけを対象とせず、企業や社会人にも参加を促す。工場見学や市民向け講座、出前授業などの地域貢献もESDと捉えることができ、企業はSDGs活動として取り組める。

ESDは社会課題に気づき、解決策を考えて行動できる人材育成。国内実施計画では「持続可能な社会の創り手の育成」と表現している。歴史は古く、2002年の国連の会議で日本が「ESDの10年」を提案した実績もある。

ESDで学ぶ課題は決まっていない。地球規模の問題でなくても高齢化や教育、防災などの地域課題もテーマとなる。性別や年齢を問わず参加して解決策を考える場であり、企業は職場でも実践できる。

国内実施計画は内閣官房や文部科学省、経済産業省、環境省など省庁横断で議論した。決定した新計画でESDの目的を「SDGsの17のすべての目標実現への貢献」と明記したことについて、環境省の三木清香・前環境教育推進室長は「最大のポイント」と強調する。前計画は啓発や普及を狙った内容だった。今回、認知度が高まったSDGsと関連づけたことで、ESDの役割を社会に伝えやすくなった。

また新計画には「民間企業」や「ステークホルダー」「ネットワーク」が頻繁に登場する。「すべてのステークホルダーを巻き込んだESDの展開」を掲げて政府や自治体、学校だけでなく企業にも参加を呼びかけた。

すでに政府は企業を含むステークホルダーのESD活動を支援する体制も整えてきた。17年11月から「地域ESD活動推進拠点(地域拠点)」の登録を開始。ESD活動を実践する組織が登録できる。18年3月は27団体だったが、19年2月は72団体、21年7月には146拠点へと増加。教育機関や民間非営利団体に加え、企業の登録も増えている。

キヤノンのリサイクル拠点「エコテクノパーク」(茨城県坂東市)、サンデンホールディングスの森林と一体化した事業所「サンデンフォレスト」(前橋市)とも地域拠点となっており、社外から見学者を受け入れて環境活動を発信している。中小企業の登録も目立つ。廃棄物処理の藤クリーン(岡山市南区)、タオル製造のIKEUCHI ORGANIC(愛媛県今治市)、土木業の井上組(徳島県つるぎ町)などは事業を題材に地域へESDを提供している。

企業は登録をしなくても地域拠点を活用できる。三木前室長は「拠点には専門家がいる。企業は社内や地域でイベントを開く時、拠点に相談することでアドバイスをもらえる。また地元の課題を聞くことで、より地域に根ざした企業活動ができる」と期待する。

企業にとってESDは従業員教育にもなる。社会課題に感度の高い“SDGs人材”が育てば、課題解決型ビジネスを推進できる。

日刊工業新聞2021年8月6日

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