良性腫瘍ががん化するメカニズムを解明、新たな治療法の開発へ
京都大学大学院生命科学研究科の井垣達吏教授と榎本将人助教の研究グループは、特定の異なるがん遺伝子の活性化した良性腫瘍細胞が隣り合うと、悪性化してがんになることを発見した。それぞれの細胞の表面で増えた分子の細胞外での相互作用により、細胞内で信号伝達経路が活性化した腫瘍で細胞同士の接着や細胞死が抑制され、がん化が進む仕組みを突き止めた。相互作用を阻害するがん治療法の開発につながると期待される。
研究ではショウジョウバエを用いて「Ras」と「Src」の異なる遺伝子を発現した良性腫瘍細胞が隣接すると互いに悪性化してがんになることを確かめた。Ras発現細胞表面でDeltaリガンド分子、それと結合するNotch受容体分子がSrc発現細胞表面で増えて相互作用が発生。Src細胞の遺伝子調節経路が活性化した。遺伝情報の転写を抑制する因子の発現により細胞同士の接着の低下と細胞死の抑制が発生し、がん化が起きた。
さらにSrc細胞が炎症に関わる物質「インターロイキン6(IL―6)」を分泌し、隣接のRas細胞で細胞外からの情報伝達経路を活性化。それによりRas細胞でも細胞同士の接着が低下し、がん化することが分かった。
日刊工業新聞2021年7月29日