100周年に緊急登板した三菱電機の新社長、不文律を破る
28日に就任した三菱電機の漆間啓社長は失ったステークホルダーからの信頼回復を急がなければならない。品質管理など製造業の根幹を揺るがす不祥事が多発し、創立以来100年間積み重ねてきた顧客や従業員、株主との信頼関係は大きく毀損(きそん)してしまった。良くも悪くも慎重な社風を抜本的に見直す変革力が問われる。
漆間社長は28日開催の会見で「三菱電機は危急存亡の秋(とき)にある。全従業員の自信を取り戻すため、経営の変革と企業風土改革に誠心誠意努めていく。全員で会社を変えていくという強い思いを共有し、全社一丸となって変革に取り組む」と決意を示した。
今回の社長選定プロセスは従来と異なり、指名委員会で数人の候補者に絞って評価・決定した。会見に同席した社外取締役で指名委員長の藪中三十二氏は「人格やリーダーシップ、変革への熱意、従業員からの信頼を見て、結果的に漆間氏になった」と説明した。ただ、杉山武史前社長に次ぐ立場だった漆間氏の“順当”な社長昇格に同じく責任を問う声が上がりそうだ。
<漆間氏の素顔とは?>
緊急登板となった異例の営業マンだ。理系出身という三菱電機社長の不文律を破らせるほどの適格者に違いない。
前例踏襲を是としないのが信条だ。入社以来FAシステムの営業畑が長く、「業務課長時代に事業の成長性を分析し、当時ある事業を売却・撤退したことがある」と自身の原体験を振り返る。その後は海外営業へ移り、欧州販社社長などを経験。「欧州でも強い代理店を買収・出資してグループに入ってもらった」と積極果敢な性格も異色だ。
近年頻発した品質問題や労務問題の多くは製造現場に起因している。営業畑の経歴は、あしき慣習の根絶に適任といえる。また、部下からの高い評価も選出の一因であり、従業員が三菱電機で働く誇りを再び取り戻す役割にも向く。
創立100周年を迎えた直後の危機。指針なき道をゆく。
(編集委員・鈴木岳志)