モノが動くデータは「宝の山」。物流業界だけでなく都市問題解決のカギに

東大院・田中謙司准教授インタビュー

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危機的状況にある物流の未来像をどう描いたらよいか。物流データを使うことで、需要やリスクを見える化し、さまざまなシーンで活用していく。これにより、効率的かつ柔軟性や満足感のある企業経営、生活、社会を実現していく。東京大学大学院の田中謙司准教授に、こうした最前線の研究や物流の未来像について話を伺った。

物流はクローズドからオープン化へ

-未来の物流をどう考えていけばよいのでしょうか。

「企業物流は、これまで大企業が自社貨物の物流を最適化するために構築したクローズドな物流網が多かったため、輸送単位(トラックや、パレット、箱など)が個社に最適化されており、多様な方式や、商慣習が存在している状況です。しかし、これからの時代、需要変動も大きく少量多品種の流れも続く中、自社貨物だけで物流網を高効率に維持し続ける会社はかなり限られてきます」

「将来、共同配送などで空きリソースを融通するオープンな物流の方が利便性が高く、コスト競争力をもつことが容易に想像できます。デジタル技術の活用も織り込むことができるため、この流れは加速し、元に戻ることはないでしょう。オープンな物流をいかに効率よく組み込むことができるのかが、企業物流の計画を立てるうえで鍵となります」

田中謙司准教授

高速道路・基幹輸送網のオープン化

-基幹輸送の物流は将来どういう姿を描いていらっしゃいますか。

「基幹輸送もオープン化が進みます。各都市の物流拠点からトラックがコンテナのようなユニットを載せて、列車のような隊列走行で高速道路を自動運転によって輸送します。高速道路のIC直結に近い物流拠点では自動化が進み、ロボットなどを使って無人により荷下ろしや荷積みを行います。隊列の発車時刻に合わせて、荷物を拠点まで運べば、次の都市まで輸送してくれます。電車の座席予約のような形で、荷物を持っていけば便利に安価で輸送できるというサービスが考えられます」

「こうしたオープン型のインフラサービスが主流になれば、その自動化方式に合わせた荷姿が企業輸送でも浸透するようになり、結果的にパレットや箱などの輸送単位の標準化や、種類の限定が進むでしょう。これが、日本型のガラパゴスになるのか、海外の主流も織り込んだ形になるのかは業界の動きに期待です。自動化はグローバルでも進んでいますから、コスト的にメリットのある形で進めていくことが肝要です」

モノが動くデータは宝の山

「物流のデータを分析していくと、都市で何が起きているかが分かるようになります。いわば、都市における『血の流れ』が見える化できるのです。しかし、国も企業もこのデータを分析しきれていません。当研究室は、この分野を深掘りしていきたいと考えています」

「こうした考え方を発展させて、物流をはじめ、電力、購買行動などさまざまなデータを活用して、都市問題を解決していく研究に取り組んでいます。まず、現状の実際の人の流れを把握します。次に、データに基づき、コンピューター上で人の流れをシミュレーションします。そして、実際の人の流れとシミュレーションした人の流れをマッチングさせ、その違いを分析します。どこで違いがついたのかを見える化し、どうすれば人の流れを制御できるかを判断するのです。その際、一人ひとりの属性に沿ったインセンティブ情報などをアプリなどに表示することで、人々の行動変容を促し、混雑緩和と購買促進の両立、交通の最適化、災害時の避難誘導などを実現することを目指しています。これは先日、『次世代AI都市シミュレーター』として公表し、小田急電鉄やソフトバンクなどと協力して研究を始めています」

次世代都市シミュレーターイメージ図

「物流データを活用し、都市の異常を検知していく研究では、新型コロナウイルス感染症のさなかのマスクの購買状況と在庫の状況を分析しています。コロナ発生直後は、新規ユーザーが爆発的に増えていることが分かります。その後は、マスクがゆきわたったのに加えて、医療系ユーザーに優先的に供給したこともあり、全体の購買状況は落ち着きました。需給の変動によって発生する在庫リスクを、個別商材の追跡データや顧客データを使って見える化し、それに基づくリスクマネジメントで安定化させることができます」

物流データの活用は、企業・個人・社会にとって価値がある

-こうしたデータ活用による需要予測と、リスクマネジメントによって、個人、企業、社会はどう変わっていきますか。

「企業にとっては、様々なリスクが見える化されることで経営判断がしやすくなり、競争力の向上につながります。個人にとっては、どこで欲しいモノがすぐ手に入るか、どういう順番に行動すればスムーズかという予測ができるので、行動予定が立てやすくなります。社会全体にとっては、物流に加え、人の行動予測により、密集の抑制、スムーズな避難誘導などを実現し、都市問題を改善することが可能になります。一人ひとりの満足度も上昇し、経済も含めた社会の活性化につながると考えています」

日本の物流が直面する危機的状況をいかに乗り切っていくのか、その課題や展望、未来像について、全6回の連載によってお伝えしてきた。危機は、新たな変化のチャンスにもなり得る。物流の未来に向け、政府、企業、大学それぞれの取り組みが着実に進んでいる。

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