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半導体不足や原材料価格高騰が影響。日銀短観・識者たちの見方

日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)が3月比9ポイント増のプラス14に改善し、2018年12月以来の水準に高まった。改善は4期連続となる。製造業は18業種中16業種が改善した。大企業非製造業は同2ポイント改善のプラス1と低水準だが、5期ぶりに改善した。ただ、コロナ禍の先行き不透明感や原材料価格の高騰で、先行きはおおむね横ばいの慎重な見通しだ。

非製造業、需要戻る

中小企業は製造業が同6ポイント改善のマイナス7、非製造業が同2ポイント改善のマイナス9で、いずれも4期連続で改善した。非製造業は大企業中心に改善。荷動きの増加を受けた運輸・郵便、公共工事向けの建機リースなど物品賃貸、冠婚葬祭など対個人サービスの需要が戻り始めた。

製造業は、IT関連で幅広く需要が盛り上がる。国内外の半導体関連やスマートフォンに関連する工作機械、プレス機械、空気圧縮機など機械類も改善が目立つ。生産用機械は同18ポイント改善のプラス26とし、先行きはさらに3ポイント改善のプラス29と高水準だ。

半導体は供給が追いつかず、自動車が同7ポイント悪化のプラス3に落ち込む要因になった。また、企業からは直動機器など工作機器の品薄感が指摘され、需給ギャップに懸念が高まる。

21年度の設備投資計画は前年度実績を上回る。大企業製造業・非製造業の投資額はそれぞれ前年度比13・3%増、同7・4%増で、いずれも00年以降の平均を超える伸びだ。

米中の景気回復を背景に原油や非鉄金属といった原材料の価格が高騰し、製造業者の調達コストが膨らんでいる。

米国の利上げ前倒し観測などを受けてドル高・円安基調にあることも、資源の輸入価格を押し上げて原材料価格の上昇の要因になっている。

仕入価格判断DIは製造業が3月比14ポイント上昇の29に膨らんだ。一方の販売価格判断DIは同6ポイント上昇の4にとどまり、仕入価格の増加分を転嫁しきれていないようだ。

資源高騰、企業業績の重荷

消費回復が弱い日本では製品価格への転嫁が容易ではなく、企業収益が圧迫されるリスクが高まっている。

足元では、ガソリンが年初比で約15%高いほか、自動車や電子機器などが最終用途となる銅コイルやアルミニウム地金はそれぞれ2―3割程度高い。

当面は、主要国経済の正常化期待から資源価格が高止まりする可能性があり、原料高が企業業績改善の重荷となり得る。

私はこう見る

製造業さらに改善へ

インベスコ・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト 木下智夫氏

製造業と非製造業の格差が明確になった。製造業は新型コロナウイルス感染拡大前の状態に戻ったと言える。欧米のワクチン普及もあり、輸出好調が続く。企業の想定為替レートより円安である現状が続けば、さらに改善が見込める。

非製造業では、対個人サービスと宿泊・飲食サービスが改善し、最悪期を脱した。非製造業の予想数値が弱いが、ワクチン普及により、実際はもっと良くなるのではないか。

設備投資計画が良いのは明るい材料。3月調査より上昇する傾向を考慮しても強い伸びだ。ソフトウエア投資が良いのは、デジタル化に取り組む反映だ。雇用人員判断は人手不足感が強まっており、デジタル化で解決する意思の表れだ。(談)

先行き「変異株」で不透明

明治安田総合研究所フェローチーフエコノミスト 小玉祐一氏

大企業・製造業のDIのプラス14は、当社の事前予測と同じで、予想通り良かった印象だ。ただ、仕入価格判断の上昇幅に比べて販売価格判断の上昇幅が小さく、景況感の下押し要因になったとみられる。非製造業は業種別の格差が大きく、今回もそうだ。対個人サービスや宿泊・飲食サービスは改善しているが、低い水準だ。

設備投資計画は、思ったより良かった。企業が脱炭素やデジタル化への対応を迫られ、行動に移す動きを反映している。

製造業・非製造業ともに先行きの予想数値が弱いのは、新型コロナウイルスの変異株流行など合理的に予測できない不透明な要素の表れだ。半導体不足や原材料価格高騰も影響している。(談)

日刊工業新聞2021年7月2日

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