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日銀が政策修正、金融緩和の副作用抑制へ

日銀が政策修正、金融緩和の副作用抑制へ

金融政策決定会合を終え、会見する黒田総裁(代表撮影)

日銀は従来の金融政策を精査する点検を実施し、金融緩和の副作用を抑える施策を決めた。上場投資信託(ETF)の弾力的な購入や長期金利の変動容認幅の明確化などだ。金融機関向けには新たなインセンティブ制度を導入する。マイナス金利を深掘りした際、コロナ禍対応の貸し出し規模に応じて金利を付けるが、実際に副作用をどれほど和らげるかが焦点になる。

日銀は2013年に物価上昇率を2%にする目標を掲げ、16年にはイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を導入した。デフレ脱却に一定の効果が認められるが、物価目標は未達だ。官製相場と指摘される株式市場や、金融機関の預貸金利ざやの縮小、運用環境の悪化など副作用を生んだ。

短期政策金利に連動して金融機関へ最大0・2%の金利を付ける「貸出促進付利制度」を設ける。現状のマイナス0・1%の短期政策金利を深掘ると付利金利が高まり、金融機関の収益悪化を和らげる設計で、「マイナス金利政策をさらに強化できる制度」(黒田東彦総裁)とした。付利金利はコロナ関連貸し出しに向けた日銀からのバックファイナンス残高に応じる。あくまで金融機関のコロナ融資を促すのが主目的だ。

一方、長期金利をゼロ%程度に抑える目標を続け、変動許容をプラスマイナス0・25%程度と初めて明確にした。「一定の範囲内であれば、金融緩和効果を損なわず市場機能にプラス効果がある」(黒田総裁)と、緩和と市場のバランスを重視した。

ETFは年6兆円の購入目安を廃止、12兆円の上限を残した。市場が大きく不安定になった時に大胆に購入するよう柔軟性を持たせる。対象を東証株価指数(TOPIX)連動型に限定し、個別銘柄の偏りを避ける。

株424円安

19日の東京株式市場で日経平均株価は、日銀の金融緩和策の点検結果を受けて、午後から売りが膨らみ、下げ幅は前日比で一時500円を超えた。ファーストリテイリングなど日経平均への寄与度が大きい値がさ株が下げ幅を拡大して、大幅安の展開となった。終値は前日比424円70銭安の2万9792円5銭だった。東証売買代金は4兆4456億円で大商いだった。

日銀の金融政策決定会合に合わせた値動きは単なるきっかけであって、本質的には一過性との見方もある。

三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは「現行政策の枠組みの微調整になる。債券市場において強い方向感を与えるような影響はないだろう」と分析する。

日刊工業新聞2021年3月22日
志田義寧
志田義寧 Shida Yoshiyasu 北陸大学 教授
政策点検の評価はすでに報道し尽くされているので、ここでは点検項目の一つであるインフレ期待について触れておく。日銀は今回の点検で、日本のインフレ期待は過去の物価や経験等の影響を受ける「適合的期待形成」のウエートが高く、インフレを経験していない若年世代ほどインフレ期待の水準が低いことを示したが、これは先行研究とも整合的だ。日銀は推計にあたり、景況感や性別、年収等をコントロール変数に加えたが、インフレ期待は属性によっても異なり、男性よりも女性が、高所得者よりも低所得者が、より高い傾向があることが分かっている。さらに実際の物価よりも高い上方バイアスがあるほか、生活不安が大きい人ほどインフレ期待が高いという先行研究もある。日銀は点検で「適合的期待形成のメカニズムは、より複雑で、粘着性が高い」と総括したが、相手は人々のマインドだけに、攻略は容易ではない。ロジックは分かるが、重視し過ぎるのは禁物だ。

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