宇宙空間に飛び交う「原子状酸素」、世界初のモニターシステムが得た成果

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写真はイメージ

宇宙空間には、太陽や銀河宇宙からくる宇宙放射線、太陽からの紫外線、さらに地球周回低高度に存在する原子状酸素(Atomic Oxygen:AO)が飛び交っている。AOとは、酸素分子が太陽からの紫外線により分解したものである。高度200キロ―600キロメートルでの大気の主成分で、高度が低くなるにつれて、AO密度が高くなることが知られている。

人工衛星などの宇宙機とAOが衝突すると、宇宙機表面に用いられている高分子材料が削れて、熱制御などの性能が劣化する恐れがあることから、AOに対する対策が求められている。

近年、観測対象との距離が近くなることから高分解能での観測が可能になる高度300キロメートル以下の超低高度軌道の衛星利用に注目が集まっている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、この軌道の利用開拓のため、2017年12月に超低高度衛星技術試験機「つばめ」を打ち上げ、世界で初めて「地球低軌道環境における長期にわたる原子状酸素とその影響」についてモニターするシステムを搭載した。

2装置で構成

このシステムは、衝突したAO量を測定する「原子状酸素フルエンスセンサ」(Atomic Oxygen Fluence Sensor:AOFS)と、AOを含む超低高度に存在する大気成分による高分子材料の劣化を観測する「材料劣化モニタ」(Material Degradation Monitor:MDM)の2種類の装置から構成される。

AOFSは水晶振動子微小天秤(てんびん)を用いてナノグラムオーダー(ナノは10億分の1)の質量変化を計測するセンサーで、衛星各所に計8個搭載した。AO量計測用の6個のセンサーには水晶振動子微小天秤の表面にポリイミド薄膜をあらかじめ成膜し、AOの衝突により削れた量の計測からAO量を算出した。

MDMには、将来の超低高度衛星への適用が期待される13種類の材料サンプルを搭載。前面および背面に発光ダイオード(LED)を設置し、そのいずれかを点灯した条件で、電荷結合素子(CCD)カメラを用いて撮像し、光学特性の経時変化の画像を取得した。材料サンプルにはこれまでJAXAが開発してきた耐AO性を有する材料も搭載した。

軌道上の材料の劣化状況を連続的にその場で観測した例はこれまでにほとんどなく、超低高度における材料劣化メカニズムに関する貴重なデータを取得できた。

超低高度利用へ

AOFS、MDMともに「つばめ」の運用終了まで、今後の超低高度軌道利用に不可欠なデータを取得することができた。AOFSでは計測値と大気モデルとの違いがみられ、またMDMでは光学特性に変化の見られた試料があった。

今後、取得データの評価や地上対照試験、異なる軌道で実施した宇宙環境曝露(ばくろ)実験との比較を行い、超低高度環境の活用に向けた環境の理解や材料との反応機構の理解を進め、宇宙利用の拡大に貢献したい。

◇研究開発部門 第一研究ユニット 研究開発員 行松和輝
奈良県出身。17年入社。入社以来、宇宙環境因子と高分子材料との相互作用に関する研究や、半導体部品の耐放射線性評価に携わる。趣味はバスケットボールと囲碁。

日刊工業新聞2021年6月21日

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