奥行き知覚機能の個人差はなぜ生じるのか?

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奥行きの知覚は人に備わる重要な視覚の機能である。環境から目(網膜)に入ってくる2次元の情報を使って奥行きを知るための手がかりはいくつかあるが、そのうちのひとつが両眼視差だ。試しにペン2本を前後にずらして持ち、片眼と両眼で見比べてみて欲しい。片眼で見たときと比較して、両眼で見たときには大きな奥行き感覚が得られるはずだ。我々の両眼は異なる角度から外界を捉えるため、両眼に映る像には奥行きの大きさに応じた位置ズレがある。このズレが両眼視差であり、脳がこの情報を処理することで、奥行きが知覚される。

さて、この両眼視差による奥行き知覚の機能だが、健常成人の間でも大きな個人差があることが知られている。どれくらい小さな両眼視差の情報まで奥行きを知覚できるかが人それぞれ異なるということだ。この奥行き知覚機能の個人差はなぜ生じるのかが長年の疑問であった。私は情報通信研究機構(NICT)脳情報通信融合研究センター(CiNet)で、この個人差を説明する脳内神経回路を明らかにする研究に取り組んでいる。

従来、脳の神経回路構造を調べる研究は主に死後脳を解剖して観察することで行われてきた。一方で、CiNetではMRI(磁気共鳴画像法)を活用することで、生きている人の脳構造の詳細な解析が行われている。MRIを用いることで、同じ実験参加者から奥行き知覚機能と脳構造の関係を示す情報を取得することができる。

両者の関係を検証した結果、大脳視覚野にあるVOFと呼ばれる線維束の構造と奥行き知覚機能の間に関連があることを示唆するデータが得られた。

今後より多くの実験参加者を対象とした検証を行い、この線維束と立体視力の関わりをさらに詳しく調べることで、奥行き知覚機能の改善に役立てる知見が得られることが期待できる。また、立体映像はVRゴーグルの普及に伴い家庭に浸透し始めている。CiNetの脳研究は、奥行き知覚の個人差に配慮した立体映像提示技術の開発に貢献することが期待されている。

奥行き知覚機能の個人差と関連する神経線維束
(文=大石浩輝・未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター・脳機能解析研究室研究員)
2021年大阪大学大学院生命機能博士課程修了。CiNetには大学院在学中に協力研究員として加わり、同年4月より現職。ヒトの脳構造をMRIを用いて可視化し、視覚情報処理との関係を検証する研究に従事。

日刊工業新聞2021年5月11日

キーワード
情報通信研究機構 NICT

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