出力は携帯電話以下!消化管運動を電波で可視化
近年の高齢化に伴い、消化管の運動機能不全に伴う疾患を持つ患者数が増えている。運動機能の検査手法として、海外においては、X線が透過しない素材で作られた小型リングが多数入ったカプセルを飲み込み、X線撮影を数回行い、リング位置の分布から機能推定を行う手法が用いられる。
この手法の課題は、撮影回数に制限があることから、正確な機能低下部位を知ることが困難なこと、撮影装置がある医療施設に行かなくてはならないことなどがある。負担が少ない手法で、正確な運動機能を知ることができれば、薬剤搬送などの治療をピンポイントで行うことにより、治療における負担も軽減できるものと考えている。
情報通信研究機構(NICT)は2017年から、製薬企業との共同研究によって、電波を利用した消化管運動機能の可視化に向けた研究開発に取り組んでいる。システムイメージを図に示す。錠剤サイズのバッテリーレスデバイスを飲み込み、腹部に複数の薄型・小型アンテナを体表に貼り付ける。アンテナから電波を送信し、その受信波形を解析することで、デバイス位置をリアルタイムで推定する。この位置を連続して取得することで、運動機能の可視化を行う。
これまでに、簡易な人体胴体モデル(円筒容器に体内組織と等価な液体を入れたもの)による実験を行い、920メガヘルツ帯の電波によって、八つのアンテナを用いた場合、デバイス(サイズ…直径8ミリ×厚み8ミリメートル)のデバイス位置を約5秒間隔で推定し、約7・7ミリメートルの推定精度(人体胴体モデル中でらせん状に移動させた時)を実現している。使用する電波の強さは携帯電話の出力の半分以下である。現在、体の動きや外来の干渉電波など、精度劣化を引き起こす原因に対する技術について、研究開発を進めている。
このような研究開発を通じて、持続可能な開発目標(SDGs)の達成目標の一つである「すべての人に健康と福祉を」の実現に貢献していきたい。
ワイヤレスネットワーク総合研究センター・ワイヤレスシステム研究室研究マネージャー 滝沢賢一
03年新潟大学大学院博士後期課程修了後、NICTに入所。超広帯域無線、ボディエリア無線、ドローン向け無線に関する研究開発に従事した後、16年より現職。体内外間ワイヤレス通信などの研究開発に従事。博士(工学)。