工学院大学の学長がニューノーマルを学びの好機と捉えるワケ

伊藤慎一郎氏インタビュー

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工学院大学フェイスブックページより

オンライン授業は実験・実習が重要な理工系大学でもメリットがある。工学院大学はニューノーマル(新常態)の学びをチャンスと捉える。「中小規模の大学ゆえに組織の風通しよく、身軽に路線変更もできる」と語る伊藤慎一郎学長に展望を聞いた。

―オンライン授業などICT活用のポイントは何ですか。

「本学キャンパスは東京都新宿区と同八王子市にあり、通学に片道2時間半かかるような学生も多い。対面の実習・実験を午後とし、オンラインの座学を午前に集めるなど時間割を変える必要がある」

「さまざまな専門分野を横断するデータサイエンス(DS)と人工知能(AI)の教育も、オンラインなら1000人以上の受講が可能だ。教員不足に対応できる一方、支援をする何十人ものティーチングアシスタント(TA)のトレーニングや居室もいる。2022年度から新たな取り組みを始めたい」

―教員の働き方も変えないといけません。

「本学は大規模クラスを避け、教員3人が分担して最大で学生数約50人の授業を行っていた。これもリモートで一つにまとめ、TAを充実させればよい。教員の授業を減らし、研究時間を増やす新たな枠組みを検討する」

工学院大学学長・伊藤慎一郎氏

―私立大学の教員の授業コマ数が多い問題を解決できますね。

「研究は教員の夢であると同時に学外発信の上でも重要だ。過去のプロジェクトで獲得した先端研究機器も、八王子市での産学連携強化に生かせる」

「一方、学生は“理工系の甲子園”などで夢を育み、力をつけられる。大学支援の13プロジェクトのうち、ソーラーカーレースや『鳥人間コンテスト』など4大会で本戦出場でき、うれしい悲鳴だ」

―技術経営(MOT)に近いシステムデザイン(SD)専攻修士課程など大学院改革の計画は。

「SD専攻の教育プログラムは日本技術者教育認定機構(JABEE)の認定を受けており、技術士の1次試験が免除される。これは機械、電気電子など他専攻にない強みだ。そこで他専攻の教員がSD専攻の学生の研究指導をできる仕組みを取り入れ、試験免除と専門性向上を両立させる。卒業生企業人の学び直しもここから技術士や博士号の取得につながる。英語授業とJABEEで途上国の留学生も引きつけたい」

【略歴】いとう・しんいちろう 81年(昭56)東大院工学系研究科修士修了、同年日産自動車入社。86年東大院博士課程単位取得満期退学、同年防衛大学校助手。88年講師。09年工学院大工学部教授。工学博士。鹿児島県出身、65歳。

【記者の目/情熱でリーダーシップ発揮】
学生にも教職員にも遠い先の夢を掲げる重要性を説く。それは憧れだった生き物の研究を専門の機械に取り入れ、生物流体さらにスポーツ科学へつなげた情熱に基づく。工学院大は前学長の路線に縛られない校風があるようで「本学を私のやり方で伸ばす」と意気込む伊藤学長のリーダーシップに期待したい。(編集委員・山本佳世子)

日刊工業新聞2021年6月8日

COMMENT

山本佳世子
編集局科学技術部
論説委員兼編集委員

理工系大学は規模が総合大学に比べて小さく、それだけによい意味での変わり身の早さが特徴だ。大学改革を理工系が他分野をリードする傾向があるのも、社会ニーズに敏感なことに加えてこの点が影響している。工学院大の場合、以前の学長が新学長に対して、「引き継ぐものは何もない。縛られないでやってくれ」と言ったとのことで、どうもこのスタイルが同大の持ち味となっているようだ。

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