「Kansai-3D実用化プロジェクト」が挑む! Additive Manufacturingの可能性とかなえる未来

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「グローバルで見た3次元(3D)積層技術の利用環境は大きく変化している。我が国でも期待は高まっており、国内市場は今後、成長軌道に入ると予測される」-。5月17日、オンラインで開催した「Kansai-3D実用化プロジェクト」の第2弾の成果発表会の冒頭で、近畿経済産業局の大木地域経済部長はカメラ越しに690人の視聴者にこう語りかけた。

挨拶する大木雅文地域経済部長

3Dプリンターなどの積層造形技術を生かしたモノづくりのプロセスは「Additive Manufacturing(AM)」と呼ばれる。複雑な内部構造を持つ部品やモジュール部品などの一体造形が可能で、部品点数や組み立て工数、金型の管理負担を減らせるなどの即時的な導入効果が期待できるというのが一般的に言われるメリットだ。しかし本質は、製品開発、製造などモノづくりのさまざまなプロセスが効率化され、ビジネスのあり方すら大きく変えるイノベーションをもたらすという点にある。すべての工程がデータ化できればネットワーク化された拠点で分散型の生産を実現できる。AMはデジタル変革(DX)のキーテクノロジーとなり得る。

ただ、いまだ2次元の設計図面が主流となっている日本の製造業ではこうした変革に対して、十分な理解がなされているとは言いがたい。世界に後れをとる日本の状況に危機感を抱き、AMの普及を全力で後押しするのが近畿経済産業局の進める「Kansai-3D実用化プロジェクト」だ。

「Kansai-3D実用化プロジェクト」は2020年度、AMプロセスの検証事業に取り組んだ。本事業では全国の3D実用化に挑戦する様々な分野のモデルとなる企業38社を選定。3次元設計や3Dプリンターなど最新ツールの活用を支援することでその可能性や課題を実感してもらい、それらの結果を公表しての横展開を図ることを狙いとした。5月17日の第2弾の発表会では、3月の第1弾の発表会に続いて、コロナ禍で迫られる変革をチャンスと捉え、新たなモノづくりに挑戦する中小企業8社がその検証結果を発表した。

中小企業の実践と課題、そして可能性

前澤金型は福井県鯖江市で眼鏡用フレームの樹脂成形金型を製造している。同社は実証事業でポリアミド樹脂製フレームの生産に使う金型を金属粉末積層で造形。先駆けて社内生産システムも再構築し、3D-CADデータのクラウド化によるデザイナーとの情報共有にも取り組んだ。

金型の積層造形においては眼鏡フレームの形状に合わせて金型温度を調整する水管回路の形状やガス抜き機構を配置。温度調節の効率化を狙った。この結果、成形品の寸法は従来と同等精度を維持しつつ、金型を温める予熱時間を従来比2分の1の約10分に短縮。金型冷却時間も短くなったことで1回あたりの成形時間を90秒から75秒に短縮した。ただ、コスト面では金型の造形や切削、管理のコストが増え、全体で約75%ものコスト増となることが判明。メリットとデメリットを合わせて試算した結果、「金型製作費の増加を25%程度に抑えられれば、成形回数7000回以上で積層造形金型のコスト増を回収できる」(井上工場長)との答えを得るに至った。井上工場長は「今回の実証によって積層造形を金型開発における技術的な選択肢の一つにできた」としており、視力補正眼鏡や医療用ゴーグル、ウエアラブル端末といった高付加価値な機能性眼鏡の開発に活用できる可能性も示した。

前澤金型が金属粉末積層で製作した眼鏡用フレームの樹脂成形金型

切削工程へのAM導入に挑戦したのは栃木県足利市のAeroEdge(エアロエッジ)だ。耐熱合金などの難削材の精密加工を手がける同社は、航空機エンジンタービンブレードの量産を主力とし、仏サフラン・エアクラフト・エンジンズとの直接契約に基づく部品供給を行っている。AMは新規事業として工法や製品の開発に取り組んでいる。

AeroEdgeはAM導入を検討するに当たり、性能、コスト、生産量、リードタイムなどの条件と実現性から、「AMだからこそ解決できるニーズや、AMで解決する意味のあるニーズを現場からスクリーニングしてテーマに選んだ」(井本技術戦略室長)。テーマは切削工程で使用する加工設備の保全作業に役立つ治具の設計と製作。工夫を凝らし5軸加工機のシャフトにOリングを取り付ける作業を効率化できる、バネ構造などを備えたリング形の治具を設計した。製作に当たっては、3Dプリンターを保有する協力先に委託して、樹脂や金属による試作から設計変更、造形までの工程サイクルを素早く進めることにも成功した。井本技術戦略室長は「引き続き作業性や労働安全衛生の観点も含む現場ニーズに対応しながら、製品設計やDfAM(Design for Additive Manufacturing)の経験を蓄積していきたい」と今後の意気込みを示した。

AeroEdgeはバネ構造などを備えたリング形の治具を製作した

兵庫県淡路市の岡田シェル製作所は鋳造工程におけるAM活用に挑んだ。同社は建機用油圧コントロールバルブや自動車用タービンハウジングの生産に使う鋳造用砂型を主に生産。その子会社は半導体製造装置用のアルミ部品の鋳造も手がける。今回は子会社でアルミ製ロボットアーム部品の量産可否を判断する上で、必要となるQCD(品質、コスト、納期)目標を設定。目標達成のために工法を大幅に変更することを計画した。そして、その効果を事前に検証するため、積層造形による試作砂型を製作した。

変更を検討する新工法はシェルプロセスと呼ばれ、フランプロセスと言われる従来工法に比べると、量産性は優れる一方、導入コストの高い金型が必要になる。このため、金型を製作する前に、積層造形による砂型を4回試作。金型や鋳造方法の改良を重ねて、新工法を採用できるか検証した。その結果、砂型重量は従来比約61%、鋳物重量は約58%を削減、一日5回にとどまっていた生産回数を4倍の20回まで増やせるめどをつけた。さらに、従来以上の品質も実現し、仕上げ工程を削減できることも確認した。

岡田専務は「生産プロセスの変更や斬新な方案、設計変更は高リスクな上にイニシャルコストが大きい。考案しても実証が難しかったが、AMを活かすことで、試作から量産への検証が可能になった」とAMを使った工法検討の有効性を実感。「ランニングコストまでを含めたコスト比較が可能になるため、顧客にも自信を持って提案できる」(岡田専務)と実証の手応えを強調した。

岡田シェル製作所が試作した砂型

AM導入の取り組みは、すぐに量産プロセスへ適用できる事例は多くないが、各社ともに3次元設計の大きな可能性や最新の3Dプリンターの高度な技術レベルをリアルに実感できたという。コストなど様々な課題も明らかになり、新たな技術の実用化に向けた着実な一歩となった。

左から前澤金型の井上治氏、AeroEdgeの井本貴之氏、岡田シェル製作所の岡田将武氏(オンライン発表会より)

製造業全体の理解がカギ

検証事業から「中小製造業が設計や開発といった上流工程に進出するチャンスをもたらす技術」(AeroEdgeの井本技術戦略室長)という視野の広がりが生まれてきたことは、近い未来にある日本のモノづくりの変革を予感させる。日本の製造業全体の理解を深めることが、今こそ、求められている。こうした問題意識のもと第2弾の成果発表会では、AM業界の4人のキーパーソンと近畿経済産業局次世代産業・情報政策課の谷川課長補佐によるパネルディスカッションを開催。「AMについての現状認識」、「AMとデジタル技術の活用」、「国内製造業が目指すべき方向」などをテーマに議論を交わした。

AMの現状についてはアディティブジャパンのパン氏が、「米国企業などでは複数のAM関連企業が上場によって数百億円規模の資金を調達している。AMは次世代のモノづくりのキーテクノロジーとしてその活用が加速しており、市場の期待も更に大きくなっている」と世界的な潮流を紹介。AM業界に大きな投資の波が到来していることを指摘した。一方、山一ハガネの小林氏は日本国内の状況について「当社がAM事業を始めた2016年頃はAM活用のケーススタディーが皆無に近かった。この3-4年で大きな飛躍を遂げており、間違いなく産業が成長しつつある」と報告した。EOS Electro Optical Systems Japanの橋爪氏も「3年前には日本国内にAMのマーケットと呼べるものはなかった。しかし今日、各社が『自動車部品の製造に使える』とか、『ここを改善すればよい』と話すのを聞いて、マーケットが生まれていることを強く実感した」と応じた。日立金属の大坪氏は、「AMは目的にしてしまうと挫折することが多い。AMに合った素材、設計で新しい工法を生み出し、モノづくりの手段の一つとしてうまく使いこなせば、大企業でなくともいろいろな取り組みが可能」とAM導入の可能性を強調した。

上段左からアディティブジャパンのトーマス・パン氏、EOS Electro Optical Systems Japanの橋爪康晃氏、近畿経済産業局の谷川淑子氏、下段左から日立金属の大坪靖彦氏、山一ハガネの小林祐太氏

また、谷川氏は「日本のモノづくりの『強み』は現場だが、未だに2次元の設計が中心であり、デジタルを使ったモノづくりが遅れている」と指摘。DX、3D-CADを使ったデジタル設計、DfAMといったデジタル技術の活用のあり方について議論を促した。これに対して、橋爪氏が「AMで成功するには、3Dプリンターという装置だけでなく材料開発、経営的判断に対するコンサルティングなど、様々な専門を持つメンバーからの支援が必要な要素の一つだ」と口火を切ると、パン氏は、こうした成功のためのさまざまな要素を「エコシステム」と表現。装置だけでなく、プロセスチェーン、サプライチェーンを最短でつなぐのがDXの目的の一つでもあるとし、「エコシステムがつくれなければAMをツールとして使うことも難しい」と指摘した。

材料の観点から見たDXとの親和性については大坪氏が「AMは微小溶融・微少凝固のプロセスであり部品の組織が微細化されて、元素の分離や偏析が起こりにくい特徴がある。さまざまな元素のいいとこ取りができる夢のような材料。AMならではの材料を使って付加価値を付けられる」と説明した。その上で、「AMはモニタリング技術が進んでおり、内部で起きていることをシミュレーションデータと比較しやすく、デジタルとの相性が良い。部位ごとに組織を変えて作るなど、活用方法はもっと出てくる。鍛造などの従来工法や品質保証と比べるのでなく、新しい工法や製品と考えるべき」とした。

谷川氏は「ライン設計をバーチャルでやり尽くした上でそれをリアルに落とし込む『デジタル・ツイン』のモノづくりができれば、従来の工法も含めて製造業の技術の選択肢を広げられる」とし、AMや従来工法におけるデジタル技術の有用性を訴えた。

日本の製造業が向かうべき方向は

今後のAM活用を目指す日本のモノづくり企業に対して、「AMのアクティビティの95%は海外で起きているという世界のトレンドに耳を傾けてほしい。すでに海外で実現したことを日本で後追いするのはあまり意味がない。航空宇宙部品というAMの大成功のアプリケーションについても、その技術やノウハウを日本の産業にどう使うかを考えることに大きな価値がある」とパン氏。小林氏は「ノウハウや経験値を蓄積して装置や材料のばらつきの整合性をとりながら、精度を上げていく以外にAMと向き合う道はない。失敗しても、次に向かうための失敗として前向きに捉え、自分たちの経験値にすることだ」と自社の経験を振り返りつつ語った。橋爪氏は「AMは部品の概念を変えて、新しい生産技術や新しい製品を作れる。従来工法に必ずしも勝つ必要はない」と柔軟な発想の必要性を強調。AM導入には「自社、自部門だけでAMに取り組まず、いろんなスキル、立場の人が参加する土壌を作ってもらいたい」とアドバイスしつつ、「『Kansai-3D実用化プロジェクト』のようなプラットフォームも重要だ」と同プロジェクトの取り組みを高く評価した。

「Kansai-3D実用化プロジェクト」の次なる展開

「Kansai-3D実用化プロジェクト」は過去2年間で、AMを活用したモデル企業の創出や3D製造プロセスを検証する仕組みづくりに取り組んできた。3年目となる2021年度事業では「DfAM」、「AM×DX」、「AM×周辺技術」を柱とした施策を展開する。

まずは、機能面からのアプローチによりAMの付加価値を活かす3次元設計・デザインである「DfAM」を普及させていく。一方で、世界のAMを活用した最先端のDXの実例を見せていくことにより、日本の企業にもっと広い視野でAMを捉えてもらえるよう働きかける。さらに、世界と戦って行く上で武器となる日本独自の技術とAMとの掛け合わせによる付加価値の創出を支援していく方針だ。

「Kansai-3D実用化プロジェクト」は「AMがかなえる未来」の実現に向けて、モノづくりのイノベーションを更に加速させていく。

「3D積層造形によるモノづくり革新拠点化構想(Kansai-3D実用化プロジェクト)」についてはコチラから

シリーズ記事
 「Kansai-3D実用化プロジェクト」が挑む!3D積層技術によるモノづくりDXの実践と課題(2021年03月31日公開)

日刊工業新聞2021年6月3日

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