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「Kansai-3D実用化プロジェクト」が挑む!3D積層技術によるモノづくりDXの実践と課題

市場規模2兆8700億円、コロナ禍で導入加速

3Dプリンター市場の拡大が本格化しつつある。独BMWの自動車や米ボーイングの飛行機には、実際に3Dプリンターで作った部品が採用され始めた。従来の切削加工などでは不可能な設計も実現できるほか、金型レス、工数削減など、多くのメリットがある3Dプリンター。今や装置そのものだけでなく、造形に用いる材料、3DCADソフトウエア、受託加工事業など、企業の裾野は広がる。グローバル市場予測は、2023年に2兆8700億円と、18年の2倍以上の成長が見込まれている。

だが一方で、日本はその波に大きく乗り遅れている。そうした事態を打開すべく近畿経済産業局は、19年1月に「Kansai-3D実用化プロジェクト」を立ち上げた。技術商社の立花エレテックが事務局となり、産官学連携で企業の3Dプリンター導入を後押しする。近畿経済産業局次世代産業・情報政策課の谷川淑子課長補佐は、「国際入札の場でも、3Dプリンターによって作られた製品と戦うようになった。中国も急速に開発を進めている」と危機感を抱く。

新型コロナウイルスの感染拡大時には、3Dプリンターの活用によって不足する医療デバイスが迅速に供給され、この価値が再認識された。さらに3D積層技術は全ての製造プロセスのデジタル化を可能とするため、バーチャル世界とフィジカルな現実世界の融合による「デジタル・ツイン」や、製造プロセスのデータ化によるネットワークを活用した「分散型生産」を実現するデジタル変革(DX)のキーテクノロジーとしても注目される。日本のモノづくりはこの技術を変革のツールとしてどのように使いこなすか。

会員企業400社超、メーカーが支援する仕組みで普及後押し

「Kansai-3D実用化プロジェクト」の生みの親である、近畿経済産業局次世代産業・情報政策課の谷川淑子課長補佐と、立花エレテック産業メカトロニクス事業部3Dプリンタ課の澤越俊幸FA営業担当部長。2人に設立の狙いや課題認識などを聞いた。

-プロジェクト立ち上げの背景は。

谷川「日本でも3Dプリンター普及のブームは2013年ごろにありました。ただ当時は試作用途が前提。以降、日本企業の認識はそのままで止まっていました。ですが、その間に海外ではどんどん先に進んでいます。日本では知識があっても、最初の一歩がなかなか踏み出せない。そこを後押ししたいと思いました」

近畿経済産業局次世代産業・情報政策課 谷川淑子課長補佐

-立花エレテックが14年に設立した「3Dものづくり普及促進会」を発展させた形となっています。立花エレテックと組んだ理由は何でしょうか。

谷川「国の政策というものは、国が全て音頭を取ると、その後の自立化が大変難しくなります。『3Dものづくり普及促進会』は、競合する商社やメーカーなどが集まって中立的な立場で事業展開してこられました。本当にやりたいプレーヤーがいて、将来を見据えたビジネスをしているのなら、その民間での取り組みを政策的に後押しする方が、成果の波及効果が高いと考えました」

澤越「新しい工法は世の中に多数あります。その中の一つを国が後押しするというのは、判断としては難しいものだと思います。谷川さんは3Dプリンターを取り巻く状況を深く把握され、国が政策的に進めるべきだと後押ししていただきました。国の旗振りにより、支援企業の関心度合いも高くなりましたし、海外企業も含めて従来つながりのなかった新たな企業からの協力も得ることが出来ました」

立花エレテック産業メカトロニクス事業部3Dプリンタ課 澤越俊幸FA営業担当部長

-体制面での特徴はどこでしょうか。

谷川「国内の3Dプリンターメーカーがほぼ全て参画しているだけでなく、素材メーカーやCADソフトウエアメーカーなどもいます。海外では3Dプリンターで造形した製品を保証・認証するビジネスが始まっており、このような日本にプレーヤーがいないビジネス領域の企業にも協力いただいています。協力企業は海外メーカー含め、3月時点で27社。そうした企業の力を借りながら、400社超の会員企業に対して、3D積層技術を活用した製品の量産化を後押ししています」

澤越「民間の力だけでは、これほどの企業数は集まらなかったと思います。これによって数多くのメーカーを比較検討できる点が大きいです。企業が新しい設備を試す際、一般的には予算が限られているので、一つのメーカーを選び、それで判断する必要があります。企業に既に知見があるのならそれでも十分ですが、多くの企業はそうではありません。いくつか比較しないと分からないのです。ただ、全て試すわけにもいかないので、当社が各メーカーとの調整役を担っています」

 

-具体的にどう取り組んできましたか。

谷川「1年目は3Dプリンターの導入や研究開発にトライする企業の個別企業支援に注力しました。日本は横並び社会なので、他社がやるならウチもやらなきゃ、ということで一気に加速する傾向があります。ですが進める中で、『本当にムーブメントを起こしたいのなら日本の製造現場で3Dプリンターが普及しない一番の要因を解決しなければ変わらないのではないか』と関係者から指摘を受けました」

-個別の支援だけでは不十分だと。

谷川「日本は現場改善力が高く、それによってモノづくりの品質を高めてきたという歴史があります。ですがコロナ禍のように急激なビジネス環境の変化が起こると、それだけでは対応しきれません。もっと上流の設計工程から改善を進めなければならないのですが、日本では2次元での設計が主流で、3D設計によるモノづくりが遅れています。また、現場の“カイゼン”力が高いがゆえに製造プロセスを精緻に作り込んでしまっており、プロセスのドラスチックな変化は、非常にハードルが高いのです」

 

-そこを改善するため、2年目に新たな枠組みを導入しました。

谷川「支援企業400社の中から、積極的に3D積層技術による量産化に取り組む38社をモデル企業として選定しました。その上で製造工程を『デザイン・設計』、『造形・後加工』、『造形物の評価』という3段階に整理して、各工程を協力企業である3Dプリンターメーカーやソフトメーカーなどが支援する、というエコシステム(枠組み)を作りました。最新の3Dツールを使ってどこまで、何ができるかを、支援企業が実際にトライして検証するものです」

-普及拡大にあたっての今後の課題は。

谷川「3D積層技術を活用したモノづくりは装置も素材もさまざまで、その組み合わせを検証しようとすると、膨大な額の投資が必要になります。だからこそ、データ上でシミュレーションして、絞り込んだ上で実際にライン構築するというモデルケースを出すことが大事。こうしたデジタル・ツインのモノづくりは、日本はまだまだです。また3Dプリンターはあらゆる造形物を実現できますが、全ての産業において置き換え可能というわけではありません。高付加価値なモノづくりにターゲットを絞って進めることが重要となります」

澤越「3Dプリンターが紹介されるとき、『面白いモノをつくることができる』というウケの良い点ばかり強調されることがあります。ですが、モノづくりの現場ではかなり切羽詰まった状況です。3Dプリンターで作った海外製品が大量に流入してきても、それに対抗する手段を日本企業は持っていない状況なのだと。そのような危機感を持って、世の中に紹介していけたらと思います」

業界の垣根を超え成果発表、課題の洗い出し進む

「3D積層技術は、バーチャルとフィジカルの融合によるデジタル・ツイン型の生産プロセス。それを、日本の強みである現場改善力と結びつけることが重要となる。海外でまねのできないモノづくりを追求していくべきだ」-。大阪キタエリアの大阪工業大学梅田キャンパス(大阪市北区)で開催されたKansai-3D実用化プロジェクトの成果発表会。冒頭あいさつとしてビデオメッセージを寄せた近畿経済産業局の米村猛局長は、取り組みの意義を熱弁した。

近畿経済産業局 米村猛局長(ビデオメッセージ)

オンラインを含め、約500人が参加した今回の成果発表会では、鋳造、鍛造、冶金、溶接、金型、切削など業種の異なる企業が、3D製造に必要なツールを活用し、検証したメリットやデメリットを惜しみなく公開した。

中北製作所は、プラント向け安全弁の構成部品を金属3Dプリンターで製作。鍛造で加工する従来方式に比べ、工程の短縮や、安全弁の性能向上などの効果を確認した。宮田彰久社長は、「金属積層でないと実現できない形状だからこそ、流体漏れを防ぐ性能を向上できた」と、メリットを語った。

南信精機製作所(長野県飯島町)は、車載関連部品の金型を金属3Dプリンターで製造。技術部設計開発課の加藤和哉課長は、有用性を認めつつも、「品質に対する考え方が各社で異なる。当社のような中小企業が積極的に取り組むには、まだ敷居が高い」と課題への認識を示した。また山本金属製作所(大阪市平野区)は、ロボットアームの長さ調整に用いる部材を3Dプリンターで試作した。技術開発部の真所最氏は「パウダーベッド方式はコストがかかりすぎて現実的ではない」とし、今後は異なる機種も採用しながら、さらにコストの検証を続けていくとした。

各社とも3Dプリンターの可能性に期待を寄せる。それだけに、課題の洗い出しにも本気度が感じられた。

上流工程にメスを、日本のモノづくりの新たな武器に

日本において3Dプリンターの普及が遅れている最大の理由は、現場ごとにプロセスが精緻に作り込まれ、装置メーカーや商社の技術者が勧める改革提案を容易に受け付けない環境になってしまったことにある。調整力に優れた技術者が豊富にいた時代には、この問題は顕在化しなかった。だが少子高齢化が進み、技術継承が困難になると、立ちゆかなくなる恐れがある。

だからこそ、企画・設計という上流工程にメスを入れなければならない。3Dプリンター導入により、製造プロセスは激変する。鋳造現場を例に挙げれば、工程の50%もの効率化が可能だという。

これは言い換えれば、従来の製造プロセス、サプライチェーン(供給網)も含めたモノづくり革命が世界中で現実化しており、その流れを受けて日本の製造業も変革を迫られているということでもある。そうした変革をネガティブにとらえるのか、「だからこそ新たな技術に挑戦しよう」とポジティブにとらえるのか。3D積層技術によるモノづくりは、日本の製造業に対して、大きな宿題を課しているといえる。

成果発表会は、5月17日(月)に第2弾を開催する。近畿経済産業局の米村猛局長は「3D積層技術は、日本のモノづくりにおいて新たな武器となる」と期待を込める。2025年の「大阪・関西万博」に向け、大企業、中小企業含め、いかに普及していけるかが問われる。

「3D積層造形によるモノづくり革新拠点化構想(Kansai-3D実用化プロジェクト)」についてはコチラから

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