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データサイエンスで先んじた海洋大、新学長が語る大学改革のポイント

データサイエンスで先んじた海洋大、新学長が語る大学改革のポイント

公式インスタグラムより

DS・AI 潜在力高める

海に関わる3学部を持つ東京海洋大学。データサイエンス(DS)と人工知能(AI)解析をいち早く全学テーマにし、2019年度には博士人材を育成する文部科学省の「卓越大学院プログラム」に採択され、注目を集めた。自身の研究にDSを適用し、新たな研究・教育の可能性を実感したという井関俊夫学長に大学改革のポイントを聞いた。

―就任前からコンプライアンス(法令順守)の確立を訴えてきました。

「学生をはじめ保護者、高校生、企業、学内の教職員といったステークホルダーに対し、“信頼を得て裏切らない”ことだと定義づけた。同時にあらためて教育改革を掲げる。学生は本当に授業を理解しているのか、なぜ成績が振るわないのか。研究の面白さを早く目覚めさせることと併せて教員の責任だ」

―新型コロナウイルス感染拡大の影響は。

「海技士免許に向けた乗船実習が難しかったほか、他大学に比べケアが不十分な面があった。第一のステークホルダーは学生だと強調したい」

―卓越大学院プログラムによる人材育成の狙いや取り組みを教えて下さい。

「本学なら何でもそろう海洋関連のビッグデータ(大量データ)をAIで解析し適用する人材を育成する。自律航行船や東京湾航行ナビゲートシステムなど、航海士やエンジニアが手がけてきた操作のデータ活用が一例だ。労働人口が減少している水産業では鮮度の判別など、熟練者の知識をAIで引き継いでカバーする」

―DSやAIを全学のテーマとしました。

「当初の関心は私の専門であるシミュレーションを含む船舶工学のDSだった。DSのプログラミング言語『Python(パイソン)』で機能をまとめたライブラリーは意外と使いやすく、考えてもいなかった視覚的な解析ができて驚いた。これはおもしろい、水産や生命の研究でもいけると感じた」

「本学は03年に東京商船大学と東京水産大学との統合で設立された。キャンパスも別で共同研究など課題があったが、(DSやAIの)新たな切り口で踏み込めば本学のポテンシャルを高められる」

【略歴】
いせき・としお 89年(平元)九大院工学系研究科博士課程単位取得退学、同年東京商船大(現東京海洋大)講師。90年助教授、06年東京海洋大教授。20年海洋工学部長。工学博士。福岡県出身、61歳。

【記者の目】
井関学長は「執行部は何を考えているかという情報を発信するのが私の役目」と強調する。議論を尽くし、東京海洋大に関わる構成員が「まあ付き合ってみるか」と協力してくれるのが理想だと考える。DS・AI導入の立役者としての成功を基に、“ステークホルダーファースト”の大学改革に期待したい。

日刊工業新聞2021年6月1日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
DS・AIを全学に(とくに研究で)浸透させるのは、東京海洋大のような特色大学の方が確かにやりやすそうだ。とはいえ学問分野の伝統にこだわる面も同時に強いのではないか。そう思っていただけに、井関学長のように自ら試した上で学内に広げるのなら、理解が得やすいのだと合点した。

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