東洋エンジが知財と技術部門の連携を強化する狙い
対象エリア、20年先見据え
東洋エンジニアリングは、プラント建設に関わる特許業務をライセンス・特許管理室で行う。国内外で設計・調達・建設(EPC)業務を手がけることから、特許の出願範囲は国内にとどまらず海外にも広げている。出願の対象エリアは20年先までも見据える戦略をとる。ただ時間が限られているため、出願する国を絞るなどの工夫をしている。(石宮由紀子)
日本のみは危険
海外を含めた出願戦略について村上菜穂子ライセンス・特許管理室長は、「日本のみで出願すると足元をさらわれる」と明かす。
現在は国内で年平均10件ほどを申請しており、同社の知財戦略の展開の模範例になった技術もいくつか存在する。ガス分離技術の「コアフラックス」や、蒸留塔の中のエネルギー効率を高める「スーパーハイディック」はそのひとつ。スーパーハイディックは、米コークケミカルテクノロジーグループ傘下のコークグリッチ(カンザス州)と欧州や中東における販売で提携した実績がある。
実は東洋エンジは2008―09年ごろ、中国で海外企業への特許無効審判を経験している。相手方の特許を無効にすることはかなわず、労力と経費がかさむ結果になった。このことから、「先にこちらから取れるものはとっていかなければならない」(村上室長)ことを学んだという。
また15年に米国で信越化学工業の米子会社から受注したエチレンプラント建設プロジェクトにおける大規模な損失も、その後の知財戦略に影を落とた。同プロジェクトへの対応が急務となったため研究開発に十分に人員を割きづらい状態になり、「知財に対するマインドが途絶えたと感じた」(同)。
研究開発に重点
ただ、設備の引き渡しは完了しており、現在は財務状態の改善に積極的に取り組んでいる。26年3月期を最終年度とする5カ年の中期経営計画では研究開発に重きを置く路線にシフト。知財への関心を高める土壌は整いつつある。
知財の仕事について、「動きは地味だが、先々のコストを下げていく効果はある」と村上室長は意義を語る。
今後、知財戦略でさらなる成長につなげるには、知財と技術部門の密な連携が必要となる。競合の知財情報を確認する上で、特に連携が重要性を増しているためだ。両部門の連携がうまく進んだ例として、約15カ国で展開する尿素関連の技術が挙げられる。東洋エンジのライセンス品では大きなウエートを占めており、同技術のスペシャリストであるエンジニア側で関連する調査をまずは実施。知財部門と協力しながら、仕事を進めている。
尿素関連の技術における連携は、今後の事業戦略のモデルケースになりつつある。「全ての技術について、そういった連携ができる段階まで引き上げたい」と村上室長は期待を込める。その一方で、特許への“食わず嫌い”が社内の一部であることも懸念する。今後は社内でレクチャーの機会を取り入れるなどの方策を打ち、知財戦略を一層強化する。