ニュースイッチ

お布施は47%減、コロナ危機で「お寺」の存在意義はどうなる?

浄土宗正覚寺住職・フリージャーナリストの鵜飼秀徳に聞く

―仏教と現代社会、お寺と日本人をテーマに取材されていますが、全国の寺院の数はコンビニエンスストアよりも多いとか。

「寺院数は約7万7000あるので、コンビニの総店舗数5万5924(2020年末)を上回る。それほどなのは、徳川幕府が戸籍管理など寺を利用した統治を図ったからで、江戸時代は9万前後で推移した。それが明治維新で神仏分離、廃仏毀釈(きしゃく)があって半減。鹿児島県では一時、皆無になったが、空白地域に浄土真宗が再興させたことなどにより、現在の状態になった。ただし、過疎化と都市化で減少傾向にある」

―コロナ禍で寺と壇信徒の関係に変化は。

「私が代表理事を務める良いお寺研究会では、『コロナ感染症流行による寺院収入への影響と未来予測』をまとめた。以前も社会変動が寺院運営に及ぼす影響を調査してきたが、コロナ禍による寺院収入への影響は大きい。仏教界全体の総収入(市場規模)は、コロナ禍前の水準で総計約5700億円(非収益事業と収益事業の合計)程度。ところが、20年は前年比約53%減の約2700億円となっている可能性がある。それを裏付ける別の調査もある」

「全日本仏教会(全日仏)は20年8月に大和証券と共同調査した『新型コロナウイルス感染症が仏教寺院に与える影響』(6192サンプル)を発表した。例えば、年間を通して多くの布施が見込める『お盆の布施金額の総額』は、例年に比べて46・7%まで落ち込んだと報告している」

―人々がお寺に求めるものはどう変わっているのでしょうか。

「疫病退散の願いから『アマビエ』がキャラクターとして流行したように人々が平穏無事を願う思いは強まっている。全日仏と大和証券の調査でも『不安な人に寄り添うこと』や『収束を祈ってほしい』など宗教の本分が求められており、ニーズは高まっている。少人数での葬儀は流れになっているが、祈りの大切さは再認識された」

―『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』の執筆で、都道府県ごとに訪れたい寺院を一つ選ぶのは難しい作業だったのではないですか。

「最多の愛知は4600カ寺ある仏教県。京都や奈良のように古刹(こさつ)・名刹(めいさつ)がひしめく地域もあるが、北陸や東北地方が劣るわけではない。京都の寺院が華やかなのは本山末寺制度が整えられ、宗門の力により権力を持ったお寺が多く存在する面もある。一方、富山県の瑞泉寺などは地域民衆の力が花開いた寺院。450畳もの広さがある本堂は日本の木造建築で5指に入る規模を誇る。建物の数度の再興や彫刻美は門衆徒や地元の職人の力だ。南砺市井波には今でも豪華な欄間を彫れる腕利きが200人も居り、技の伝承に努めている」

―取材で全国を巡って感じたことは。

「コロナ禍で寺門を閉めている所が結構あり、門の外から手を合わせる参拝者が居られた。3密回避の意識は必要でも本来は祈りの場であり、人々の苦しみを和らげるのが役割だ。そうでなければテーマパークと変わらない。従来以上に市井の埋もれたお寺を紹介し、良いお寺研究会を通じてお寺を核とした地域創生にかかわっていきたい」

(聞き手=鈴木景章)
<略歴>
鵜飼秀徳(うかい・ひでのり)氏。99年(平11)成城大文芸卒、同年報知新聞社に入社。事件や政治取材を担当した後、05年に日経BP入社。旅・食など趣味の雑誌やビジネス誌編集に携わる。一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事。京都府出身、46歳。
「良いお寺研究会を通じてお寺を核とした地域創生にかかわっていきたい」と鵜飼氏

編集部のおすすめ