富士フイルムがAI活用で群を抜く実績を上げてきた理由
製品の高付加価値化や研究開発の効率化の目的で、人工知能(AI)を積極的に導入する動きが活発化している。本格的なAI導入の動きに伴い、情報通信技術(ICT)活用の機運が高まった。技術活用の取り組みを進める企業が多い中、成果を結ぶには、いかに実務ベースでデジタル化を進めるかがカギを握る。富士フイルムホールディングス(HD)は主力事業で培ったデジタル技術力を生かし、AIの実用化を進める。
多分野で展開
AIの実用化にはデジタル技術が重要だ。富士フイルムHDは主力のフォトイメージング事業で80年代からデジタル化を進めてきた背景を持つ。富士フイルムHDの最高デジタル責任者(CDO)杉本征剛執行役員は「写真を作る工程は技術の宝庫。画像の処理や機器制御ソフトの技術に活用していたデジタル技術が、今日のデジタル変革(DX)につながっている」と強みについて説明する。
長年培ってきた知見を生かし、AIを搭載した商品を展開する。AIを活用し、トンネルや橋などの損傷を自動で検出する画像診断サービス「ひびみっけ」は、画像から設備のひび割れや漏水、鉄筋の露出といった損傷を自動で検出する。さらに、コンピューター断層撮影装置(CT)画像から肺がんなどの兆候の検出を支援するAIシステムを開発した。医師の読影作業を大幅に効率化する。他にも写真のアルバム作成支援など幅広い領域でAI搭載製品を展開しており、高付加価値製品を生み出すことで差別化に成功する。
社内実用化
富士フイルムHDのAI活用の特徴は、社内業務で幅広く活用を検討したことだ。社内に蓄積したビッグデータ(大量データ)の活用に早期から目をつけ、14年にICT活用推進プロジェクトを開始。16年には「デジタル変革委員会」を立ち上げた。各事業やスタッフ部門まで領域を限定せずに課題を洗い出し、DXやAIの活用による効率化の可能性を模索した。
開発加速に活用
蓄積した化合物データから新たな化合物の物性をAIで予測し、開発の加速に活用する。さらに製品生産の工程にAIを取り入れることで、適切な人員配置で効率的な生産計画を作り上げるといった取り組みも進める。自然言語処理AIを使った文書を読み取って類似文書を探すシステムなどは、人事や経理などの部門で利用が定着した。
AIの実用化について「成果物を内部にとどめるのではなく、広く使えるよう公開する。他部門と成功事例を共有することで波及的に広がる」と杉本CDOは話す。AI活用を目的化せず実務として使いこなすことが、定着のカギとなる。(安川結野)