NTTデータとJAXAが共同研究。3D地図の高度化で目指す「デジタルツイン」
NTTデータと宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、人工衛星に搭載したレーザー高度計を活用した3次元(3D)地図の高度化に関する共同研究を始めた。衛星画像を用いた従来の3D地図では困難だった森林域の地盤面の高さ構造を正確に観測し、より高精度な防災地図の作製を目指す。将来は高精度化した3D地図を使って都市の状況をサイバー空間上で再現し、将来予測に役立てる「デジタルツイン」の実現につなげる。
「洪水の被害予測など、防災地図として活用するには数十センチメートル単位の精度向上が必要だった」―。NTTデータ・ソーシャルイノベーション事業部の筒井健部長は、JAXAとの共同研究の狙いをこう説明する。
NTTデータが現在提供している全世界デジタル3D地図サービス「AW3D」は、JAXAの陸域観測技術衛星「だいち」など複数の衛星画像の視差から、地形を立体的に表現している。ただ、「マルチビューステレオ」と呼ぶこの技法では樹木や植生に覆われた地面を衛星で直接観測できないため、森林域の地表面の高さを推定するしかなく、多少の誤差が生じていた。
そこで着目したのが人工衛星に搭載したレーザー高度計「ライダー」の活用だ。ライダーが発射したレーザーが対象物で反射し、受信するまでの時間差で対象までの距離を測る。通常の衛星画像では直接観測することが難しい樹木や植生に覆われた地盤面を高精度に観測できる。同高度計は世界で数機しか存在しないため、マルチビューステレオでの結果の補正に使うことを想定している。
ライダーは小惑星探査機「はやぶさ」などに搭載された実績があるが、地球観測用のレーザー高度計は、より高い軌道高度が不可欠。レーザーパワーも約1000倍必要になる。筒井部長は「発熱で機械が変形する恐れもあるため、発射エネルギーの効率化が求められる」と指摘する。今回の共同研究は2022年3月までだが、今後もJAXAと新しい衛星センサーやデータ解析技術の研究を進める。
3D地図の高精度化は、NTTが提唱する次世代光通信基盤の構想「IOWN(アイオン)」で実現するデジタルツインにも通ずる。サイバー空間に現実そっくりの都市を再現し、現状分析や将来予測に役立てるためには高精度なデジタル基盤を作り、リアルタイムデータを載せる必要がある。「基盤データの誤差は25センチメートル以内であること」(筒井部長)が条件という。
数年後には画像を取得できる衛星の数が倍増し「東名阪地域では3カ月に1度の頻度でデータを更新できるようになる」(同)見込み。さらに画像の誤差も30センチメートルと、精度も向上する予定だ。
通信ネットワークから端末まで光を使うことで電気制御の限界を大幅に超える情報処理能力を実現するIOWNは、30年ごろの実用化を目指している。データの伝送容量が従来比125倍と、瞬きの間(0・3秒)に2時間の映画を1万本ダウンロード可能なIOWNのリアルタイム分析に欠かせない技術となりそうだ。