効率化だけじゃない、医療・調剤・介護を根本から変える画期的製品たち

ヘルスケア業務に大きな変容

 国民の健康や生活を支える医療や調剤、介護の現場で人手不足が目立っている。生産年齢人口が減少する中で、働き手の確保は各産業が抱える重要課題だ。これを解決できなければ、サービスの停滞は避けられない。一方で進むのが新技術を活用した業務支援で、ヘルスケア産業でも大きな広がりを見せる。既存の業務を高度化、効率化することで従事者の負荷を軽減することが主な目的だが、業務を根本から変える画期的な製品も登場した。

AIで医師を支援


 「人工知能(AI)には診断のアシスト役になってもらう」と神戸大学医学部付属病院の村上卓道医師は話す。神戸大学とGEヘルスケア・ジャパン(東京都日野市)は共同研究講座を7月から本格的に始動し、AIを活用した検診支援システムの開発に力を入れている。AIで医師を補助する動きが医療機器業界で広がる。

 オリンパスは超高倍率の内視鏡で得た画像データをAIで解析し、対象が腫瘍か非腫瘍か可能性を数値化する内視鏡画像診断ソフトウエアを提供する。AIを活用した内視鏡分野の製品として国内で初めて薬事承認を取得。正診率96%と専門医に匹敵する高精度で腫瘍か非腫瘍かを判別する。

 低侵襲手術のニーズの高まりで、内視鏡医の負担も増加する。腫瘍か非腫瘍かを直ちに判別できない場合、従来は組織を採取し生体検査を行っていた。結果的に正常な組織でも検査に回されることは多く、患者にも病理医にも負担がある。同製品の使用は、不要な生体検査の省略に役立つという。

富士フイルムが提供している、放射線科医を支援するAIプラットフォーム

 富士フイルムはコンピューター断層撮影装置(CT)画像で診断を行う放射線科医を支援するAIプラットフォームを提供している。CTや磁気共鳴断層撮影装置(MRI)などの検査機器で撮影した画像を保管・管理する医用画像情報システム(PACS)上で動作する。

 同プラットフォームはCT画像から肝臓などの臓器だけを自動抽出し、医師が病変部を示すために骨に番号をつけるラベリングを自動化。1人の患者の過去に撮影したCT画像と現在のCT画像の骨構造を位置合わせし、経時的な変化も確認する。CT画像の分厚い断面像から薄い断面像を仮想的に生成し骨の視認性を高め、これらの機能が医師の読影を補助する。

経営に割ける時間増


 「人がやる必要がないことは機械にやらせたい」。みそら薬局の新井孝志薬局長は調剤薬局の未来に希望をこめる。同薬局は、ソラミチシステムが開発したクラウド型薬歴管理システムを導入した。

 システムは薬を入力するだけで、服薬指導が自動表示される機能を搭載。画面を見ながら患者に指導し、必要事項にチェックを入れれば薬歴記入が終わる。患者から話を聞いてメモをとり、パソコンに打ち込む作業が不要で、記載を忘れる心配もない。新井薬局長も書く時間がなくなったことで経営に割ける時間が増えたという。

 富士フイルムは機械の開発で現場の効率化を支援する。多くの調剤薬局では、一度に飲む数種類の薬を一つの袋に入れて処方する一包化に対応する。ただ、一包化する際に薬剤師の手間となるのが、正しい薬が正しい量入っているかの確認だ。そこで同社は一包化された薬剤の名称と数量を自動的に判定できるシステムを開発した。一包化された薬剤を撮影し、錠剤の刻印や文字を抽出。不足している薬剤や処方箋と異なる薬剤を素早く確認できる。一包化した画像は記録として残せる。

 「夜間業務が根本的に変わった」。横浜市にある介護付き有料老人ホームの職員は、業務内容の変化に驚く。SOMPOホールディングスが運営する「ラヴィーレ弥生台」では18年、入居者の睡眠の状態が分かるマットレス型のセンサーを導入。夜間業務が大きな変容を遂げた。

 54ある全てのベッドに採用したのはパラマウントベッドの見守りシステム。センサーで入居者の寝返り、呼吸、心拍などを計測。一人ひとりの眠りの状態をパソコンや携帯端末で逐次確認できる。

 このシステムで変わったのは、夜間の巡回だ。これまでは入居者の状態を把握するために一定時間ごとに居室を回っていたが、入居者の状態が可視化されたことで職員はモニターを確認するだけになった。巡回は一室当たり約2分かかったが、モニター確認は5秒で済む。これにより夜間の職員を3人から2人に減らし、人件費は年1000万円の削減が見込めるという。

 

薬歴:薬の飲み合わせなどによる患者の健康被害の防止を目的に、調剤薬局の薬剤師が記載するもの。内容は薬の名称や量、過去のアレルギーや副作用などで、この薬歴に基づく患者への指導は調剤報酬の対象となっている。調剤薬局では、薬歴を記載する際、来店した患者から聞き取った内容を一端メモに書き留めて、その後にシステムに入力していることが多い。一方、薬剤師が不足する中で、煩雑な薬歴の記載が後回しにされ未記載のまま放置されるケースが目立っており、これが調剤報酬の不当請求を引き起こす要因の一つになっている。



年間CT検査数、約3000万例


 日本の医師数は数十年にわたり右肩上がりで増加し、この傾向は今も変わらない。人口10万人に対する医師数も16年で約250人と、平成初期と比べ約80人増えている。ではなぜ医師不足が叫ばれるようになったのか。

 主要因は絶対的に医師が足りていないことだ。人数は増加傾向にあるが、他の先進国と比較すると人口に対する医師数は平均以下との指摘がある。これに1人当たりの外来回数の多さや、医師が特定の診察科や地域に偏ることなどが拍車を掛ける。特に医師の「偏在」は深刻で、厚生労働省も対策に乗り出したが大きな改善はいまだ見えないのが現状だ。

                  

 厚生労働省によると、国内のコンピューター断層撮影装置(CT)による検査数は98年から14年間で約2倍に増えており、年間のCT検査数は約3000万例と推定される。

 一方、撮影した画像を読影する放射線科医の増加率は検査数に追いついておらず、医師1人当たりの負担が増えているのが現状だ。

 加えて医療機器は高性能化が大幅に進み、放射線科医が確認しなければならない情報量も増加している。こうした状況に対し、CT画像からの病変部の拾い上げや計測、比較などの作業でAIの力を借りながら、医療現場の負担の軽減につなげている。

日刊工業新聞2019年8月16日

  

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