経営の柱「メディカルシステム」売り上げ倍増へ、富士フイルムのAI活用戦略
富士フイルムは、経営の柱に据えるメディカルシステム事業の成長を人工知能(AI)活用で目指す。3月末、日立製作所の画像診断事業の買収を完了し、新体制が始動。これを受け、これまで開示してこなかった同事業の売上高について、2020年代半ばまでに、19年度の2倍となる7000億円とする目標を示した。目標達成に向け、AIによる高付加価値な製品・サービスを提供するとともに、新規需要を求めて新興国市場での検診ビジネスに傾注する。(取材・石川雅基)
「IT、M&A(合併・買収)を活用することでメディカルシステム事業の売上高の年平均成長率約7%を実現してきた」と富士フイルムホールディングス次期社長が内定している後藤禎一取締役は振り返る。今後、21年度に売上高5000億円、20年代半ばに同7000億円を目指す。19年度の富士フイルムのメディカルシステム事業の売上高は約3500億円で、同年度の日立の画像診断事業は同1380億円。年7%の成長を維持すると目標に達する計算だ。目標の達成に向け「M&Aも絡めていく。コロナ禍で想定もしないような企業がリストに上がってくる」(後藤取締役)と見る。
成長の原動力に位置付けるのがAI活用。鍋田敏之メディカルシステム開発センター長は「AIの検出精度向上には学習データの質や学習方法が重要。データの数が多くても質が伴わなければ、AIの精度は上がらない」と指摘する。MRI(磁気共鳴断層撮影装置)やCT(コンピューター断層撮影装置)を手がける日立の画像診断事業の買収で「医療機器とそれを束ねるITの両アセットが充実し、今まで以上に良質なデータと医療固有のデータにアクセスできる」(鍋田メディカルシステム開発センター長)ようになり、AI精度が向上するという。
「診断支援、経営支援、保守・メンテナンスの三つのサービスへのAI活用を進め、今後は病院経営に直結した提案を行う」(同)と話す。
新たなビジネス展開として注力するのが、新興国市場での検診ビジネスだ。同社の検査機器とAI技術を活用することで、検査精度と検査効率の向上を図り、検診が習慣化していない地域で需要を開拓する。
既に同社は21年2月にインドのIT拠点であるベンガルールに検診センター「NURA(ニューラ)」を開設し、健康診断ビジネスに参入。検診センターでは、身体検査に加え、10種類のがん検診や心筋梗塞リスクの早期発見に向けた生活習慣病の検査などを実施する。検査結果はその場で分かる。検査料は2万円程度に抑えた。今後、東南アジアや中東、アフリカなどに100施設の開設を目指す。「一つの検診センターで年間2万人程度の利用を想定する」(後藤取締役)。
今後は、検診が習慣化していない地域でいかに必要性を根付かせるかがカギとなる。海外経験が豊富な後藤取締役の手腕が問われる。