「医療」は最も知性的な産業、規制にはブレーキだけでなくアクセルとハンドルがある

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薬事の国際規制調和へ(写真はイメージ)

日本は科学技術立国であり続けることが国是である。とりわけ医療の世界は無限の叡智(えいち)と健康と富、さらに平和も生み出す最も知性的な産業として先進国の重要な産業という位置にあると理解される。米国では医療産業が全産業の25%を占めるほどであり、日本もその方向での産業構造の変換は必定であろう。

医薬品、医療機器、再生医療等製品は世界の医療の現場で共通で使用されるものである。規制という概念にはそれぞれの国や立場で思惑が異なる。それを発明したグループやそれを製品化する産業界の立場では、できるだけ簡便な規制の中でできるだけ早く自社製品の社会への提供を願い、規制当局は国民目線から見て問題が起こらぬように規制しようと考えることになる。規制(Regulation)には「ブレーキ」のみならず「アクセル」と「ハンドル」がある。それを導く科学は日本がリードする「レギュラトリーサイエンス」である。

冒頭述べた通り、科学技術立国としては日進月歩の製品に対しては新しい判断の基準が求められる。「国民目線」と前述したが本当にその視線を常に失うことなく、産も学も官も、その新しい製品の「有効性」「安全性」「品質」について正面から取り組み、判断していかねばならない。

医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、アカデミーの先端技術の理解と規制当局の規制の概念の相互理解を進めるために、2010年7月から「連携大学院制度」を設置し科学技術をリードする教室との間で人材の受け入れを始めた。11年7月にはアカデミアに対して「医薬品・医療機器薬事戦略相談」事業を始め、あっという間に延べ4000件を超す相談事業と拡大し、今日の「レギュラトリーサイエンス戦略相談事業」に発展し、アカデミア以外の多くの開発者の力ともなっている。

規制当局は、ここではできるだけその長所を生かし、短所を抑制する工夫の相談を提供する。12年5月には「科学委員会」が創設され、生まれたての科学技術の将来性などに関連する最先端の科学者に2年間にわたり議論して、長所・短所などを科学的に判断していただき、「再生医療」に関してはアカデミア、企業、規制当局の間での最も世界で最先端のコンセンサスを得たことが記憶に新しい。これにより14年11月、世界で最初に規制当局として「再生医療等製品の条件付き早期承認制度」を設けた。今日も科学委員会により将来の規制のあり方など、例えば人工知能(AI)技術などが取り上げられ、未来に向かっての用意が先導して進められている。

一方、薬害問題で喫緊の課題であった安全対策も09年にMIHARI PROJECT(厚生労働省予算)がスタートした。医療情報データベースの活用による医薬品などの安全対策の向上を目指したものであるが、現在はMID−NETでさらに全国の23の医療機関からの500万人規模のリアルタイムな診療情報での安全対策に貢献しているところである。

このように規制改革というのは国民目線で産学官それぞれの先進国により初めて誘導されるものであり、その叡智は「レギュラトリーサイエンス」により生み出されるものであり決して一人勝手なものではない。日米欧の医療先進国は、未来に向かってあらためてその分野での責任のある合意を目指す国際規制調和を最優先の課題として取り組んでもらいたい。

(文=近藤達也<Medical Excellence JAPAN理事長>)
【略歴】こんどう・たつや 東大医卒。脳神経外科医。国立国際医療センター病院長などを経て、08年医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長。「レギュラトリーサイエンス」(規制科学)を推進し、わが国の医療改革に貢献。19年から現職。79歳。

日刊工業新聞2021年4月19日

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