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「空の未来」の可能性と課題は?経産省にドローン利活用の展望を聞く


これまで映画やテレビ番組の空撮、さらには個人の趣味として使われているイメージが強かったドローン(小型無人航空機)。しかし、いまその状況が大きく変わりつつある。数々の自治体や企業が、課題解決のために導入し、実証・実装しているケースが増加中だ。さらには2022年の航空法改正で、“有人地帯の目視外飛行”(レベル4)の実現に向けた議論も活発に行われている。

METIジャーナルの4月政策特集では、各地で繰り広げられる先進的な取組を通じて、「空の未来」に詳しく迫る。初回はドローン政策を担当している、経済産業省次世代空モビリティ政策室の3人に「ドローンのいまと未来」そして「ドローンの安全・安心」について伺った。

ドローンを正しく知ることで、活用が広がり、良い循環が生まれていく

次世代空モビリティ政策室室長補佐・伊藤貴紀氏

日本のドローン技術については、巨大航空機メーカーがある欧州やアメリカに比べても、遜色なく進歩を遂げています。さらには全国の自治体や企業も、ドローンの制度構築に積極的です。経産省としては、メーカーの技術支援はもちろん、ドローンを活用する側の支援も強化し、産業振興の“目玉”として海外にも売っていけるようにしたいのです。

しかし、ドローンはあくまで“ツール”。自治体や企業の課題を解決して社会に実装でき、顧客に役立つものであることが大切です。産業として定着し、ドローンのサービスを提供する企業が生まれ、その結果雇用が創出されるなど、良い循環になるようにしていきたいと考えています。これに関しても官民が連携して、着々と構想を進めています。

2015年に首相官邸にドローンが落下した事件がありました。その印象が強かったせいか「ドローンはなんとなく怖い」というイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ドローン技術は目覚ましいほどに進化しています。怖い、不安だというイメージは、“いま現在のドローンを知る”ことできっと払拭できるはず。実際にドローンの実証実験をしている自治体では、住民への説明を丁寧に行っており、理解を得て実施しています。

ドローンは主にモノを運びますが、その先の人を運べる“空飛ぶクルマ”に関していえば、“夢”はもっと広がります。電気で動くので、環境に優しく騒音も発生しにくい。垂直離陸飛行が可能ならば滑走路も不要。ビルの上にポートを作れば、点から点に移動できて、渋滞知らず。そのうち大量生産ができるようになれば、1機あたりのコストが安価になり、SDGsの観点から見ても、目標の達成に寄与できます。

私は、先ほど“夢”と言いましたが、もはや単なる夢物語ではありません。着実に進めていくことで、“現実”となりうるでしょう。

モデルケースを“見える化”して、ドローンが利活用できる日常を作る

次世代空モビリティ政策室係長・澤田隼人氏

100年ほど前、車は一部の特権階級のモビリティだったのに、いまは多くの方々が所有できるものになりました。そう遠くない将来に、誰もが、車と同様にドローンの恩恵をこうむることができるはずです。しかし、一足飛びに、そこに行き着くわけではありません。伊藤が「いま現在のドローンを知ることが大事」と申しましたので、私からは、まさにいまのドローンのリアルなお話をします。

例えば、現在、中山間地域におけるドローン物流においては、長野県伊那市が、自治体の中ではドローンの社会実装のトップランナーです。過疎地域の買い物難民になり得る人々に、生活物資を届けるというもので、商品のオーダーが入れば、平日毎日飛行し、物資を届けています。「伊那市は特別で、他の自治体では難しいのではないか?」とのお声も聞きますが、実際にお話を伺ってみると、そうではなさそうです。

伊那市は、他の自治体に先駆けて数年前からドローンフェスを開催するなど、住民がリアルにドローンに触れ、向き合う時間を作りました。そうした細かな積み重ねの結果「ドローンは便利だ」「面白いものだ」と住民の皆さんにご理解いただき、実際に物資を運ぶ手段にしようとなったわけです。そのために、運行に必要な書類を用意し、申請をし、条例を整えていくというプロセスを一つ一つクリアしていったのです。こういったことは、どの自治体でもできることですよね。

また、大分県佐伯市では、農業従事者の“やりがい”にもドローンが大きくかかわっていこうとしています。農業従事者は高齢者率が高く、車の免許の返納をしているケースが多いので、せっかく野菜を収穫してもトラックで出荷できなかった。しかし現在ではドローンに野菜を積んで、道の駅などへ運ぶ実証に取り組んでいます。

他には静岡県焼津市が災害救助、石川県加賀市が獣害対策などに役立てていますが、こういった情報をまだ知らない自治体が多いのではないでしょうか。現状ではドローンの利活用のニュースは増えつつありますが、どういったプロセスで実現したのか、どういった成果が出ているのかという情報が“見える化”されていません。そのため他で再現することが難しく、ネックになっています。

だからこそ、モデルケースを他の自治体に紹介し、繋ぎ、横展開していく。これによりドローンの利活用が進み、その情報にリーチできる人を増やしていく―。このような仕組みを作るのが我々の役目だと思っています。一つ一つの積み重ねの先にドローンが作る“新しい日常”が待っているはず。ドローンの無限の可能性を広く伝えていきたいと考えています。

技術、制度、社会受容の三位一体で、“安全・安心”を後押し

次世代空モビリティ政策室係長・古市有佑氏

伊藤が言いましたように、「ドローンが落ちてきたら怖い」というイメージを持つ方は、いまでも相当数いらっしゃるはず。ましてや2022年の、有人地帯での目視外飛行(レベル4)の実現を考えると、より一層の安全・安心対策を遂行していかなくてはなりません。現在、機体の飛行安全に関しては国交省が見ていますが、データセキュリティの部分は主に経産省で見ています。

ドローン産業の発展には、“社会受容性”の確保がとても重要です。私は安全・安心なドローン基盤開発事業に携わっていますが、技術開発を通じてドローンの安全性を高めることも社会受容性確保には必要な取り組みだと思っております。例えば監視カメラは、その名の通り見張られているようで、当初は嫌悪感を持つ人が多かった。でも、犯罪抑止力になるなどメリットが認知されてきたので、現在では自然に受け容れられています。その感覚がドローンにも必要で、「飛んでいるから怖い」ではなく「あ、飛んでるな」、もしくは誰も空を見上げないくらい、ドローンが人々の“日常”になるのが望ましいのです。そのような状況にするために、丁寧に社会実装を進めていきたいと考えています。

レベル4になって、パイロットが見ていないところでドローンを飛ばすには、より高いレベルの技術開発が求められますが、日本の製造工程の品質の高さ、技術力の高さには素晴らしいものがあると思います。将来的にはボタン一つで100機飛ばしても、プラントの点検をしてどれもちゃんと戻ってくる。

免許や機体の認証制度を開始するなど、澤田が言ったように、ドローンは今後車と同じような道をたどるでしょう。生活に密着した存在になるためには、技術、制度、社会受容、どれか一つに偏るのでなく、“三位一体”で、安全・安心を担保するべきですね。

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