来年6月に施行される新航空法で、日本はドローン物流のリードを奪えるか
モノづくり日本の底力示せ
開会中の通常国会で大幅な航空法改正法案が審議される予定だ。2022年6月に施行される第三者上空飛行に関する法案で、恐らく先進国の中でも日本はトップレベルの法整備が完備し、ドローン産業振興という形で世界をリードできると期待される。国家戦略特区の活動である「千葉市ドローン宅配等分科会」は16年に発足し、そのもとで技術検討会が活動している。
最新の取り組みとして二つを紹介したい。一つはJR京葉線の線路横断飛行を5日に行い、成功したことだ。電車走行の間隙(かんげき)を選び、電車が近づいていないことをドローン搭載カメラの映像で地上局のオペレーターが確認して線路を横断した。恐らく日本では初めてのことで、関係機関の尽力により実現した。
これは画期的だ。線路横断飛行自体は小さな一歩だが、ドローン産業としては大躍進を意味する。今後、全国のJR、私鉄の線路横断飛行が特別のことでなくなり、その先には市道、県道、国道などの道路横断も、監視者なしで、人や車が走っていなければ横切る飛行が常態化していくだろう。もちろん、22年6月以降でカテゴリーIIIの機体認証が取れて、操縦ライセンスを取得した運航業者であれば線路横断、道路横断は自由にできる。
もう一つはこの2月から3月に計画される純国産機による東京湾縦断飛行実証実験だ。
縦断飛行の目的は、東京湾岸エリアに位置する政令指定都市、横浜市と千葉市間の約50キロメートルに超低空のドローン物流システムを構築する第一歩にすることだ。レベル4の第三者上空飛行は現行法では禁止されているため、現行法で飛行可能なレベル3の目視外長距離飛行である。東京ベイエリアは世界に冠たる過密地帯で、海上に大型船舶がたくさん航行し、羽田空港があり、道路も渋滞する。この環境負荷を軽減する新しいエコシステムとしてのドローンで、BツーB(企業間)、あるいはBツーC(対消費者)のビジネス便による手軽で低価格な都市間物流をベイエリアで実現する。直下型地震や台風などの防災・減災システムとしてのミッションを担える救急ドローンでもある。
この1年間ほどの実証試験で、人口過密地区近郊における長距離飛行は(1)型式証明や耐空証明に準ずる墜落しにくい優れた機体性能(2)冗長な駆動系やフライトコントローラーにより、一つの不具合があってもミッション継続可能(3)飛行中に途絶しない冗長無線通信システム−の三つが必須で、これらが中核技術であることを検証してきた。こうした人口密集地域での取り組みは国内では珍しく、今後、都市部周辺に急速に拡大するだろう。
一方、米国、中国などでは都市部飛行はすでに始まっており、米国ではカリフォルニアやノースカロライナ、ネバダ、フロリダの各州でドローン物流免許の認可を5社が取得して、サービスを始めている。コロナ禍の象徴的な取り組みで、スーパーから家の庭先まで食料品を、あるいは、クリニックから大病院まで検体や検査キットを数キロメートルから10キロメートルほどの飛行で搬送している。
16年頃からこの5年間、日本のドローン産業は中国、米国の後塵(こうじん)を拝してきた。しかし、破壊的イノベーションになる可能性を秘めたドローン物流では、わが国も22年6月の新航空法の施行によってモノづくり日本の底力を見せるチャンス到来だ。今度こそ遅れは許されない。(次回は元国際エネルギー機関事務局長の田中伸男氏です)
【略歴】のなみ・けんぞう 東京都立大院修了。米航空宇宙局(NASA)研究員などを経て94年千葉大学教授。ドローン研究の第一人者で、18年には創業した自律制御システム研究所を東証マザーズに上場させた。71歳。