シヤチハタが脱ハンコの中でイノベーションを起こす秘訣とは?

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松田さんが企画した手洗い練習スタンプ「おててポン」や「ペタペタおえかき」などで家庭向け商品を生み出した

朱肉のいらないハンコ「シヤチハタ」を生み出したシヤチハタ(名古屋市西区)。1925年にインキを補充せずに連続で押印できる「万年スタンプ台」を発売し、強みのインキで多様な商品を生み出してきた。ペーパーレスや政府の押印廃止の流れに屈することなくイノベーションを創出し、コロナ禍にも商機を見いだしている。

コロナ禍でヒットした「おててポン」。せっけんを使い約30秒洗うだけで、スタンプが消える。特殊なインキを使用し、残るのではなく「消える」ハンコを生み出した。発売以降、累計約40万個を販売し、新ジャンルの商品としては2番目の売り上げを記録した。

感染予防として重要な手洗い。しかし、子どもにどう手洗いを教えればいいのか。おててポンはこの「お困り事」を解決した。発案者はデジタルマーケティング部商品企画課所属の松田孝明(35)さん。若い発想が老舗に新風をもたらした。

松田さんは他にも自社のインキ技術を生かし、指で貼りつける絵の具「ぺたぺたおえかき」や服の裏表を一目で見分ける「お着替えできるポン」など、ハンコではないインキを使った子どもを育てる家族向け商品を生み出してきた。

松田さん自身、2児の父。同商品企画課に所属して10年間、さまざまな顧客目線に立った商品を企画してきた“アイデアマン”だ。小さな事にもアンテナを張り巡らせ、困り事にメスを入れる。

例えば、娘の服の着間違いから思いついた、まえうしろ目印スタンプの「お着替えできるポン」。「子どもでも表裏を間違えずに着られるにはどうすれば良いか」と考えた。

アイデアの源は「会話」だ。お客さまと会話を積み重ね、日常生活に根付くちょっとした問題を発見する。そしてハンコに捕らわれずアイデアを考えるのも秘訣(ひけつ)という。

脱ハンコにコロナ禍、ペーパーレスといった逆風の中、同社の業績は低迷している。20年6月期の単体売上高は157億円と、前期比で10%減った。

消費者目線の新商品開発に加え、BツーB(対事業者)事業では20年7月に電子決済サービス「シヤチハタクラウド」を刷新。決済に必要な押印を電子化するシステムを自ら販売し、ニューノーマル(新常態)に対応する。

時代の流れにより変化する押印の文化。シヤチハタは今後も強みであるインキを活用し、世の中の困り事を解決できる商品を世に生み出し続ける。

日刊工業新聞2021年4月6日

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