ルネサス工場火災から考える、戦略物資「半導体」調達のあり方
ルネサスエレクトロニクスの半導体工場火災は、回復基調にある自動車産業の行方に水を差す事態だ。世界的な半導体不足が続いている。自動車産業は、半導体の調達戦略を見直す必要に迫られている。
ルネサスの車載半導体を生産する主力工場である那珂工場(茨城県ひたちなか市)で火災が発生し、300ミリメートルウエハーラインが停止した。出火元はメッキ装置の筐体とメッキ槽で、過電流が発生し発火に至った。焼損した製造装置は11台。
早期の復旧と代替生産先の確保に全力を挙げなければならないが、実行には困難が伴いそう。半導体の需給逼迫(ひっぱく)は世界的規模で発生している。既に製造装置メーカーは大量の受注残を抱え、半導体受託製造企業はフル生産状況にあり新規の受け入れ余力は乏しい。ルネサスは1カ月で復旧を目指すと言うが、予定通りに進むかは不透明だ。
当面は火災工場に残る仕掛品や自動車メーカー、部品メーカーが持つ在庫量が頼みの綱。これがなくなれば、自動車生産は減産や停止を余儀なくされ、各社の経営にも打撃となる。
短期的な施策に加え、中長期的な視点で半導体の調達戦略を見直す必要があるのではないか。車の電動化、自動運転が急速に加速する中で、車載半導体の搭載数はまだまだ増える。
半導体は車載電池とともに、今後各国で戦略物資と位置付けられ、世界中から自由に安価で調達できなくなる恐れもある。自国で生産体制を重層的に確保するサプライチェーンの強靱(きょうじん)化が必要だ。
そのためには、半導体メーカーが十分な投資予見性を持てる環境整備が重要になる。自動車側は一定量の調達を確約し、半導体の安定生産に配慮するか、もしくは出資や自ら生産に乗り出すといった対応も考えられる。ルネサスにはデンソーとトヨタ自動車が11・7%出資しており、これがトヨタグループと他自動車メーカーとの半導体調達力の違いともなっている。
自動車産業にとっての半導体の重要性を再認識し、将来への備えを真剣に考えるべきだ。