大企業30代社長プロジェクトが日本の「ベンチャー力」を底上げする!
ベンチャー支援や大手企業のイノベーションに関するコンサルティングを手がけるデロイトトーマツベンチャーサポート。2019年9月からクライアントの大企業子会社や関連会社などの社長に20―30代の有能な社員を就ける「大企業30代社長」創出を推進している。旗振り役はデジタルネーティブ世代の斎藤祐馬社長(38)。「2030年までにアジアのイノベーションハブとなる」と意気込む。(大阪・中野恵美子)
「サラリーマンと経営は大きく違う」と、斎藤社長は強調する。大企業30代社長プロジェクトの狙いの一つは若いうちから経営感覚を磨くこと。高いITリテラシーを駆使し、スピード感を持って事業を立ち上げ、協業先のベンチャーと信頼関係を結べるとみる。同社は若手社長の創出を図るとともに、そのための新規事業創出を支援しており、既に複数の成果を上げている。
近年、国内では三井不動産や三菱地所といった大企業から社内ベンチャーが生まれている。JR東日本スタートアップなどはオープンイノベーションプログラムを機にベンチャーを設立。いずれも、20―30代の大企業の人材が立ち上げている。大企業30代社長プロジェクトは、そうした流れの推進役を担う。
19年6月、斎藤社長は36歳という若さでデロイトトーマツベンチャーサポート社長に就任。10代の頃、起業した父に触発され「ベンチャー支援を通じて社会を変えたい」という思いを募らせた。
慶応義塾大学経済学部卒業後、念願の公認会計士試験に合格。トーマツ入社後はベンチャー経営者と面談を重ね、訪問件数は年間2000件に上った。
その中で、始業前の7時からベンチャーと大企業の事業提携につなげるイベント「モーニングピッチ」を発起。13年1月の初開催から約360回を数え、累計1700社以上のベンチャーが登壇した。大企業やベンチャーキャピタル(VC)、メディアが集い、ネットワーク形成のきっかけとなっている。
「国内ベンチャーはこの10年間でかなり注目されるようになった」と斎藤社長。一方、「米国や中国は時価総額トップ10の企業がスタートアップによって塗り替えられている」と指摘。ベンチャーの力が国の活力を左右する。大企業発や後継ぎ型など、多様なベンチャーを生み出していくことが欠かせない。
さらに「これまでベンチャーが成長しやすい環境が整えられてきたが、今後は社会がどうあるべきかということに着目しなければならない」と課題を設定する。時代とともに消費者の価値観は変容してきている。地球環境や持続可能性をテーマに、新たな事業に挑戦するという風土の醸成が求められる。