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コロナ禍に「浦和レッズ」はどう戦い抜いた?地域とサポーターが一体になった奮闘の記録

コロナ禍に「浦和レッズ」はどう戦い抜いた?地域とサポーターが一体になった奮闘の記録

飛躍を誓う今シーズン(FC東京との初戦に臨む)写真提供=浦和レッズ

サッカー明治安田生命J1リーグが2月末、開幕した。新型コロナウイルスによるさまざまな制約を受けながらも、9か月あまりに及ぶシーズンがスタートした。経済産業省が選定する「地域未来牽引企業」には、こうしたプロサッカークラブを運営する企業も名を連ねている。その裏にはスポーツを通じたさまざまな活動が、地域経済にもたらす波及効果への期待がある。さいたま市をホームタウンに活躍する浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)は、まさにこれを象徴する存在である。

「3年計画」始動の矢先に

観客動員数は2006年以降、J1トップに君臨。Jリーグ王者に1度、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)に2度輝くなど、名実ともに日本のトップクラブの一つである浦和レッズ。ファン・サポーターの熱烈な応援ぶりでも知られ、Jリーグ創設の理念である「地域密着」を体現する。

2020年シーズンは、目先の勝利だけにとらわれず22年度のリーグ優勝を目標とする「3年計画」を掲げ、新時代の常勝クラブに向けた一步を踏み出したところだった。そんな出鼻をくじいたのが新型コロナウイルスの感染拡大。緊急事態宣言の発出に伴い、試合は延期となり再開の時期さえ見通せない。クラブ創設以来の危機に直面したのである。

プロサッカークラブの主な収益源は、試合を開催することで得られる入場料収入、ユニフォームにロゴを掲載するなどのスポンサー収入、ファンショップやオンライン販売によるグッズ収入の大きく3つ。言うまでもなく、新型コロナの影響が懸念されたのは入場料収入とスポンサー収入。「最悪の場合、パートナー契約(スポンサー契約のレッズ内での呼び名)破棄もあり得るのではないかと頭をよぎった」。レッズでスポンサー営業を担当するパートナー・ホームタウン本部の山本桂司課長はこう振り返る。コロナ禍で経営が厳しいのはどこも同じだからだ。

ところが意外にも寄せられたのは「レッズを応援したい」という声だった。結果として、スポンサー収入は「昨年並みの約38億円を維持することができた」(山本氏)。その裏には、地元企業や市民との接点を増やそうと継続してきたさまざまな取り組みがある。

オンライン取材に応じる立花洋一社長

例えば「REX CLUB」と称するメンバーシップ制度。10万人超に及ぶ会員の6割が埼玉県在住者。さらにその半数近くがさいたま市民という。シーズンチケットを何年間保有し、いつ試合に来て、いつ買ったかといった「浦和レッズとともに歩んだ年数」を大切にするコンセプトが特徴だ。立花洋一社長によると「さいたま市浦和区は新しく移り住む人が多いため、まずは興味を持ってもらい、さらに長期で応援してもらう人を大切にする仕組みが必要だった」。ホームタウンに住む市民との緊密な関係や応援がこのような取り組みにつながっている。

新たな交流のあり方模索

2020年7月には、明治安田生命J1リーグが再開した。ただ、スタジアムに駆けつけるファン・サポーターはいない「無観客」。「歓声が聞こえないのはさみしさはもちろん、選手たちもモチベーションを保つのが難しかっただろう」(立花社長)。その後、最終的に5000人を上限に有観客試合が認められたが、収益が厳しいことは言うまでもない。だからこそ、これまで培ってきた地元との緊密な関係を再構築し、コロナ禍ならではの、あるいはwithコロナ時代を見据えた新機軸を打ち出す必要があると決断した。

例えばスポンサー企業やファン・サポーター向けに実施したのは、立花社長をはじめ経営陣がオンライン形式でクラブの最新情報を発信したり、選手との交流機会を創出する試み。さらに思い切った決断は、クラブの厳しい経営状況を包み隠さずに公表し、広く支援を募ったことである。クラウドファンディングや無観客試合でのギフティングを通じて寄せられた資金は関係者の予想を上回る約1億3000万円。山本さんは「応援してくれる企業やファン・サポーターとのコミュニケーションを一層深めていくことの重要性を再認識した」と受け止めている。

地元企業を応援したい

リカルド ロドリゲス新監督を迎えた今シーズン。埼玉スタジアムで行われた開幕初戦はFC東京と対戦し、1対1のドローでのスタートとなった。そんな新生・浦和レッズが狙うのは「ACL制覇」。経済成長に伴って競技レベルの向上がめざましい東南アジア諸国は、サッカー市場の拡大が見込まれる。こうした中で知名度を高めることで、放映権やグッズ販売の収益拡大が見込めるからだ。

withコロナ時代のクラブ運営を模索する。写真提供=浦和レッズ

立花社長は浦和レッズの活躍が「地元の企業の応援にもつながる」とも考える。「浦和の企業が海外ビジネスを展開する際に、レッズの活躍を会話の糸口に話が弾み、商機につながれば」と語る。軸足は地元密着、視線はアジアへ-。浦和レッズの活躍が地域経済に一層の好循環をもたらすことが期待される。

【企業情報】 ▽所在地=埼玉県さいたま市緑区美園2-1▽社長=立花洋一氏▽創業=1992年3月▽売上高=約82億円(2019年1月期)

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