創業110年の菓子卸の山星屋、NECと共同で10万品のデータ提供する背景
NECと共同
山星屋(大阪市中央区、小西規雄社長、06・6125・2100)は、1909年(明42)創業の菓子卸。全国に支店や物流センターを構え、プライベートブランド(PB)商品の企画や製造を手がける。蓄積した膨大な菓子関連データを生かし、2020年9月からNECと共同で菓子商品約10万品のマスターデータの提供を始めた。21年4月にデジタル専門の部署も立ち上げ、菓子情報を一手に担うスペシャリストへ脱皮を図る。
NECが手がける「売り場情報画像解析サービス」の一環で、データ提供する。同サービスは同社の画像認識技術により、スマートフォンなどで撮影した店舗の画像から商品棚の陳列状態をデータ化する。これまで菓子メーカーなどが手入力していた店舗の棚情報をスマホで簡単にデータ化して分析できる。
ただ、サービスの活用には利用する企業ごとに商品の膨大なマスターデータを用意する必要がある。正確なデータをメーカーが持ち合わせている場合、9割以上の精度で画像認識できる。だが、用意した商品画像や情報に誤りがある場合、分析に支障を来す場合もある。また、季節やイベントに左右されやすい菓子棚は商品の入れ替わりが激しく、実証へ踏み込むのが難しいという課題もあった。
2―3社で実証
そこで山星屋はメーカーに商品データがなくても実用へ踏み出せるように自社で蓄積したマスターデータの提供を始めた。菓子卸は取引店舗への棚提案のため、普段から多様なメーカーの菓子情報を集積する。同社はマスター登録専門の部署に20人強の人材を配置し、商品の現物撮影から原材料名の入力・確認に至るまで入念に情報収集する。こうして集めたデータを他社のマーケティングにも役立てたいと考えた。
オプションサービスの消費税抜きの価格は25万円。すでに2―3社で実証実験を始めており、大手菓子メーカーとの商談も進んでいるという。これまでの業務の延長上でサービス展開できるため、新事業にかかる負担も少なくて済む。
ただ、こうしたサービスの利用者はマーケティングに多くの人的資源や予算を投入できる大手メーカーに限られるのが現状だ。マーケティング本部の磧上末和イノベーション推進オフィス長は「中小にどういう提供の仕方があるか、来期の検討課題にしたい」と、先を見据える。
新たなステップ
中小への情報提供と同時に、同社が狙うのが消費者層向けのビジネス展開だ。取り扱うマスターデータには原材料名や成分表示、カロリー表示などが含まれる。まだ検討の初期段階だが、消費者向けの健康管理アプリケーション(応用ソフト)への展開など、データの持つ可能性は大きいとみる。
創業110年を超える看板に甘んじることなく、「イノベーションで風穴を開け、データを活用して新たなステップを目指す」(磧上イノベーション推進オフィス長)。挑戦は始まったばかりだが、踏み出した一歩は大きい。(大阪・大川藍)