自分で稼ぎながら他人にも稼いでもらう「投資」は社会を良くする

『ビジネスエリートになるための教養としての投資』著者・奥野一成氏に聞く

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知識総動員し他人に稼いでもらう

―日本人は「投資家の思想」ではなく「労働者の思想」が多いと指摘しています。

「時間を切り売りして働かされる労働者1・0から脱却する手段が投資だ。自分で稼ぎながら他人にも稼いでもらう労働者2・0を目指すべきだ。投資で重要なのは、断片的なことをまとめ上げる力だ。知識を総動員し、結果に結びつける作業は仕事も投資も同じ。こうした能力があれば成功する可能性が上がる」

―日本人は投資にネガティブな印象を持つ国民性です。理由に戦後のモノづくり信仰をあげています。

「投資には資金が必要だ。日本は敗戦で富を失い、与えられた資源はお金ではなく時間と体だけ。額に汗して物をつくることで高度成長があった。成功体験に慢心し『モノづくりこそ尊い』という信仰を生み、同時に『投資はいかがわしい』という社会通念ができてしまったと思う。体ではなく脳に汗をかく発想が乏しいまま来た。さらに協調性を重視し、飛び抜けた人を排除する教育制度も問題だ。高度成長期には機能したが、その時代は終わった」

―そうした意味での脱モノづくりを実践している優れた経営者もいます。

「そういう会社だけに投資すれば普通に勝てる。残念ながら日本の8割の会社は違う。経営者には投資眼が必要だ。例えば、その事業はお客の問題を解決しているのかという発想に立ち、そうであれば有限の経営資源を人や研究開発、設備、M&A(合併・買収)に投じるのが経営者の仕事。何に資金を投下するべきかと言えば、どう参入障壁を実現するかの観点が重要だ」

―本物の投資とは長期投資であると説きます。

「持続的に利益を上げる企業は世の中の問題を解決している。利益は問題解決の対価だ。利益を上げ続ける会社を見付けたら、当然投資家はもうかる。同時に顧客の問題、社会の問題を解決していることになる。アダム・スミスの言う利己と利他の調和だ。富は一朝一夕にできず、偉大な企業は急に出現しない。娯楽性の高い投機と違い、そうした企業に預けても徐々にしかもうからないと考えるべきだ」

―日本の家計の金融資産は過去最高の水準です。

「約1900兆円のうち、50%以上が現預金だ。上手に投資していないのは先進国の国民としてはもったいない。お金がある人はちゃんと投資し、社会を良くしなければいけない」

―インデックス投資が若者に人気です。

「インデックスかアクティブかの議論の前に、そのポートフォリオの企業群が価値を増大させるような企業群なのかという視点を優先すべきだ」

―日米マーケットを比べてどうみますか。

「米国では銀行からの資金調達が日本のように容易ではない。上場を維持することも難しい。そうした中でS&P500は素晴らしいインデックスだ。日本は銀行融資の簡単さに株式持ち合いの問題もある。東証株価指数はダイナミズムが働くようにするべきだ」(編集委員・六笠友和)

◇奥野一成(おくの・かずしげ)氏 農林中金バリューインベストメンツ常務兼最高投資責任

92年(平4)京大法卒、同年日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。UBS証券、農林中央金庫などを経て14年から現職。大阪府出身。

日刊工業新聞2021年2月22日

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