富裕層を狙い成功、ニセコに学ぶ「選択と集中」の地方創生

<情報工場 「読学」のススメ#88>『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』

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「パークハイアットニセコ」公式インスタグラムより

「外国人による外国人のための楽園」になりつつあるニセコ

北海道のスキーリゾート地「ニセコ」の、「外国人による外国人のための楽園」化が進んでいるらしい。

海外資本が続々参入し、5つ星ホテルのパーク・ハイアットやリッツカールトンが開業。欧州の街角と見紛う道を歩けば外国語が飛び交い、コンビニの棚には外国の菓子や高級シャンパンが並ぶ。ちなみに路線価の標準宅地の上昇率は、6年連続日本一である。

このニセコの現状について、投資家の間では「バブルでいずれ崩壊する」という見方もある。地方創生の観点からは「富裕層向けで、大衆が訪れにくい」という批判も。

しかしニセコの「強さ」は本物だ。高級ホテルのアマンが2023年に開業を予定しており、建設中の高級コンドミニアムは、コロナ禍にあってもアジア系の海外富裕層などに、数億円で次々と売れている。大衆が訪れなくても、地域経済へのプラスの影響は計り知れないのだ。

なぜニセコは強いのか。成功の要因はどこにあり、そこから何を学ぶべきか。こうした問いに答えるのが、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社+α新書)である。ニセコの開発史、「消費より投資」の考え方、世界金融市場の動向など、多方面からニセコを解説する。

著者の高橋克英さんは、三菱銀行やシティグループ証券などで富裕層向け資産運用アドバイザーなどを務めた後、独立して金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立、代表を務める。富裕層を熟知するのみならず、プライベートで20年近く毎冬のようにニセコを訪れる“ニセコ通”でもある。

観光客頼みの「消費」よりも海外富裕層の「投資」が経済を牽引

そもそも、ニセコが世界に知られるようになったのは「パウダースノー」の存在だ。この世界最高クラスの雪質が評判となり、アジアやオーストラリア、欧米からもスキーヤーが訪れるようになった。そして、彼らのニーズを満たすべく海外資本の高級ホテルが次々と開業し、交通インフラの整備が進められてきた。

本書では、ニセコがコロナ禍に負けない要因の一つとして、観光客頼みの「消費」より、海外富裕層の「投資」が経済を牽引していることを指摘している。つまり、実体経済が打撃を受けても、金融市場が活況である限り、おカネが流れ込む構造である。

投資対象はホテルコンドミニアムで、いまやニセコの中心地がある倶知安町だけで約330棟。分譲マンションのように販売され、部屋の購入希望者は不動産開発会社などから所有権を購入。自ら滞在できるほか、ホテルのように貸し出してレンタル収入の一部を得ることができる。

先述したように、バブルの懸念はもちろんある。だが、本書の著者、高橋さんは、ニセコは当面安泰とみている。

その背景には、世界金融市場の大きな流れがある。コロナ禍以前から続く日米欧の金融緩和策、低金利政策の影響から、少しでも高い利回りを求め、世界の余剰資金が動いている。ミドルリスク・ミドルリターンの投資先として人気を集める一つが、先進国の高級リゾートの不動産だ。ニセコはその中で、いまや確固たる地位を築きつつあるという。

世界に目を向ければ、ニセコの不動産価格は世界のスキーリゾートの中では31位にすぎず、トップの仏クーシュベルの半額程度だ。欧米にはニセコを凌駕するリゾートがごまんとある。これはつまり、ニセコには、まだまだ値上がりする伸びしろがあることを示しているのではないか。

また、ニセコはもはや国民体育大会レベルではなく、オリンピックレベルの“プレーヤー”だ。競う相手は世界のスキーリゾートであり、存在感を発揮するためには、それなりの施設やサービスは必須、それに見合った高価格帯は必然だ。国内の一般市民ではなく、富裕層にターゲットを絞る戦略は、決して間違ってはいないのだ。

全国一律の地方創生ではなく「選択と集中」による多様化を

高橋さんは、ニセコの成功例をもとに、「全国一律」の地方創生に疑問を呈する。地方の活性化は、国が長く取り組み続けてきた課題である。しかし、過疎の進む津々浦々にまで公共インフラやサービスを整備し、空港に新幹線に高速道路を張り巡らせ、災害対策までしていては予算がいくらあっても追いつかない。

高橋さんはそこで、人が「住む場所」と「住まない場所」を分け、開発する地域を限定する、という大胆な案を提示する。

この案は極論かもしれないが、全国一律の取り組みでは地方創生は実現しないという指摘は納得できる。B級グルメやゆるキャラといった大衆向けコンテンツ、ワーケーションやリモートワーク需要の取り込み、移住促進といった策は、現状、どの地方でも進められている。しかし、みんなが行えば小さなパイの奪い合いとなる。いずれの地域もジリ貧の末に共倒れとなりかねない。

その点ニセコは、パウダースノーというキラーコンテンツを生かし、「インバウンド」「富裕層」「スキー」にターゲットを絞る。その「選択と集中」こそ、成功の要因なのだ。

景観やパウダースノー、開発の機会などに恵まれたニセコを、他の地方がそのまま真似ることはできない。それでも、「選択と集中」に学ぶことはできる。実際、「島留学」で全国から高校生を呼び込む島根県隠岐諸島の海士町や、島全体をアートスポットにした香川県直島町など、ターゲットやコンテンツを絞り込んで成功した例はいくつもある。

本来、地方は多様なはずだ。その意味で、「選択と集中」によって地域ごとの特色を生かす策は理に適う。

リゾートもあれば、自然との共生を掲げたり、伝統文化を観光資源にしたり、ポツンと一軒家のような暮らしを是とする地域があってもいいのではないか。ニセコが、地方の多様な在り方の一例として参考になるのは間違いない。

(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』 高橋 克英 著 講談社(講談社+α新書) 184p 900円(税別)

COMMENT

冨岡 桂子
情報工場

本書は、著者が“ニセコ通”だけに、若干ニセコ礼讃がすぎるきらいもあるが、著者が伝えたいメッセージは「ニセコは素晴らしい」「もっと海外の富裕層から富を引き出すべきだ」などといったものではないと思う。記事にもあるように、各地方がそれぞれの「強み」を生かし、ターゲットを明確にして戦略を練るべき、ということに他ならない。たとえば見事に観光地として“復活”を果たした静岡県熱海市は、ターゲットを「東京に暮らし仕事をしている20代後半から30代前半くらいの女性」に絞り、その層が好み、メリットを感じる工夫をしていった。ターゲットを明確にするところから始めるのはマーケティングの基本中の基本ともいえるが、現状の地方創生では、それすらもできていない地域が少なくないということだろうか。

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