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半導体メモリー売却も、東芝が次世代HDDで日本連合に動く狙い

DC向けの大容量化がカギ握る。昭和電工、TDKと技術集結し巻き返し
半導体メモリー売却も、東芝が次世代HDDで日本連合に動く狙い

東芝の事業説明資料より

 ハードディスク駆動装置(HDD)をめぐる競争が新たなステージに入った。主戦場はデータセンター(DC)向けの市場だ。HDDの大容量化技術が勝ち残りのカギを握る。東芝、米ウエスタンデジタル(WD)、米シーゲート・テクノロジーの3社が開発を活発化する。一方、経営再建を進める東芝のHDD事業戦略には不透明感も漂う。

 HDDの世界市場は縮小傾向が続く。原因はNAND型フラッシュメモリーを用いた記憶装置「ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)」の台頭だ。SSDは高速にデータを読み書きできるほか、衝撃に強く、省エネルギー性にも優れる。

 記憶容量当たりの単価が高いのがネックだったが、ここ数年で解消。パソコン分野でHDDのポジションを奪っている。その結果、HDDの2016年度の生産台数見込みは前年比13%減の4億1760万台。17年度以降も減少が続く見通し。

 しかしストレージ(外部記憶装置)業界に詳しい堀内義章アナリストは「主戦場は変わったが、HDDはなくならない」と指摘する。
              

SSDと役割分担できあがる


 新たな舞台はDCに設置するサーバー分野だ。SSDが電気的特性を利用しているのに対し、磁気的特性を生かして記録するHDDはデータを長く保存できる。

 サーバーのうち頻繁に読み書きするデータはSSDで、めったに読み書きしないが長期保存が必要なデータはHDDでという役割分担ができつつある。

 クラウドサービスの急増を背景に、世界各地でDC建設が活発化しており、HDD市場について堀内アナリストは「20年ぐらいには市場は下げ止まるのではないか」と分析する。成長市場でどう勝ち残るか。東芝、WD、シーゲートの各社はDC分野の攻略できるかが勝敗を左右する。

シーゲートが存在感


 DC向け市場ではすでにWDとシーゲートが存在感を示している。WDは16年に12テラバイト(テラは1兆)のHDDを発売。現在、サーバー向けHDDの筐体に入るディスクでは限界値とされる8枚の内蔵に成功し、累計で1200万台以上を売り上げた。

 そのほか発熱を抑えつつ、容量を増やせるヘリウムガス内蔵のHDDのほか、SSDなども手がけており、セット販売でシェアを伸ばす。

 またシーゲートはシンガポール工場に研究開発設備を集約。10テラバイト以上の大容量製品のラインアップを揃えて、19年までに投入する。ヘッドやメディアなどを内製化し、総合的なコスト競争力の高さで攻勢をかけている。

 WD、シーゲートに対し、DC向けの後発で参入した東芝は製品力や販売面など総合的に後れを取っている。ディスクが7枚入りで10テラバイトの大容量製品を展開する東芝だが、サーバー向けシェアは10%程度で、シェアで先行する米2社を追う構図だ。
             

異なる技術で大容量化に挑む


 勝ち残りのカギは大幅な大容量化にあるが、東芝はWD、シーゲートとは異なる技術で実現を目指す。枚数ではなく、新たな記録技術で1枚当たりの記録密度を向上する「熱アシスト記録」や「マイクロ波アシスト記録」と呼ばれる次世代HDDの開発に挑む。

 データの書き込み時に熱を加えて記録を高密度化し、1枚当たり5―10倍の容量増も可能になる。東芝は開発にリソースを集中するほか、HDD部品を製造するTDKや昭和電工と協業し、19年度以降に巻き返しを図る戦略だ。

 TDKや昭和電工にとっても共同戦線の理由はある。両社ともに東芝を大口取引先にしている。米2社からの受注は減少気味で、東芝の成長が2社のHDD事業にとっても死活問題だ。

 今後は日本企業間の関係をより強固にし、市場縮小と他社との競合に立ち向かわなければならない。東芝幹部は「関係強化は必須」(東芝幹部)とする。HDD部品の内製化を行う米系2社に対抗し、連携して勝負にでる。

 業界では現在の垂直記録方式に代わる熱アシスト記録やシングル磁気記録、二次元磁気記録といった次世代技術はまだ製品化に至っていない。
                

3社連合「現場は同じ会社のようになる」


 東芝が狙う熱アシスト記録方式なども高熱のレーザーなどを用いるため、部品の耐熱性などが課題だ。部品を含めトライアンドエラーを繰り返して製品化を目指すが、部品単品の試作は順調に進んでいる。

 TDKはマイクロ波アシスト磁気記録向け磁気ヘッドの製品化にめどをつけた。熱アシスト記録についてもメーカーへの製品導入を予定する18年までに開発できる見通しだ。

 昭和電工もHDDの容量アップのため、メディアの材料技術を改良している。大容量書き込み時は高熱状態となるため、メディアの強度を高めつつ、耐熱性も求められる。すでに大幅な投資をせずに微調整の改造で製造できる段階までこぎ着けている。

 今後は東芝、TDK、昭和電工の3社で製品化を目指す。このため各社の製造データや人材を共有し、一体的な生産現場を構築する。

 「現場は同じ会社のようになる」(東芝の製造担当者)と連携を深める構え。次世代HDDはコストダウンの課題はあるが、飛躍的に容量を上げることができる。日本連合が先駆けて製品化すれば、市場で勝ち残る“切り札”となる。
                

メモリー売却で不透明感


 一方で懸念もある。経営再建を進める東芝は4月に東芝メモリを設立し、外部資本を導入する計画だ。この新会社の東芝メモリにはSSD事業が含まれるが、同事業はHDD事業と親和性が高く、重要な人材を共有している。

 こうした中核人材が東芝メモリに移動すれば、今後のHDDの研究開発などに影響が及ぶ可能性がある。人材だけでなく、SSDとHDDの組立工場はいずれも同じフィリピン工場にあり、今後の生産拠点の区分けも決まっていない。
 
 東芝メモリの出資企業によっては、HDDとSSDのセット販売が難しくなる恐れもある。さらに「外部資本が入れば東芝メモリの事業と東芝のHDD事業は外部記憶装置という意味では競合してしまう」(長内厚早稲田大学教授)との見方もある。
(文=渡辺光太)
日刊工業新聞2017年4月20日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
3社は共同出資会社を検討しているそうだが、メモリー売却を想定した動きだろう。正直、日本での3社連合では生き残れないのは明らか。

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