住宅向け断熱材を活用し食品ロスを減らす! 旭化成の欲張りな物流システム
食品ロス削減へ新物流技術
旭化成は密閉断熱ボックスとセンサーを使って青果物の鮮度を保持する物流システム「フレッシュロジ」で、食品ロス削減への貢献を目指す。断熱ボックスを使い劣化要因である温度上昇を緩やかにし、輸送中の温度変化データなどから鮮度を予測、見える化して適切に販売期間を延ばす。また常温トラックでの輸送や積載率向上によって、輸送時の環境負荷も低減できるという欲張りな技術だ。
マーケティング&イノベーション本部で食農プロジェクトを担当する上山健治部長は「食品ロスの議論は店舗や消費者などの川下が中心だが、運べないために産地や輸送センターで廃棄される分や、輸送時の劣化で廃棄される分もある」と川上の食品ロス問題を指摘する。鮮度保持に有効な冷蔵トラックは常温に比べ数が少なく、輸送コストも高くなる。
そこで同社は青果物の収穫後に呼吸熱を下げるために行う“予冷”に着目。予冷された青果物を高断熱素材で保冷すれば、常温トラックでも鮮度を保持できると考え、同社の住宅向け断熱材「ネオマフォーム」を使って断熱ボックスを作った。
最適な保管温度の異なる青果物も別の断熱ボックスに入れて、混載して輸送力を上げられる。トラックの平均積載率は50%に満たず、混載は輸送コスト低減に大きく効く。一部区間はトラックごと船に乗ることも可能だ。
上山部長は「良い輸送条件を作り込むことに最も苦労した」と話す。外部の研究機関とともに約2年をかけ、トマトやキュウリ、ピーマンなどの青果物10品を中心に輸送条件を作り込んだ。主に50時間以内の輸送を想定するが、さらに長距離の輸送は断熱材の厚み変更などで対応できる。
現在、実際に産地から市場へ輸送する実証実験を行っており、早期の事業立ち上げを目指す。
旭化成は主力製品「サランラップ」が食品ラップで高いシェアを持つ。上山部長は「旭化成の使命は、世界の人びとの“いのち”と“くらし”を守ること。SDGs目標2『飢餓をゼロに』に関係する事業をちゃんと作ろうと考えた」と、フレッシュロジ開発のきっかけを語る。コロナ禍で健康を支える食への注目も一層集まる中、旭化成らしい技術とアイデアで貢献する。
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