島津製作所の「コロナウイルス検出試薬キット」、当事者が語る誕生秘話

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島津の新型コロナウイルス検出試薬キット。感染拡大で需要が逼迫している

2020年3月4日、島津製作所はPCR検査時間が従来の半分で、検査作業負担も大幅軽減する「新型コロナウイルス検出試薬キット」開発に着手したと発表した。開発段階の公表は極めて異例だが、当時は第1波で検査体制破綻が懸念された時期。開発責任者の四方正光氏は「社会的重要性を考え、伝えるべきだと判断し、踏み切った」と振り返る。

春先終息の楽観論もあった20年1月、四方氏は通常業務の傍ら準備は必要と、検査方法など調査を開始。過去の新興感染症で試薬が完成した頃に終息したことや、事業として成り立つのかと問われることが頭をかすめた。

2月に入り、感染症が世界を席巻し始め、問い合わせも急増。2月15日に経営陣から開発が可能かを問われ、「技術的にはすぐできます」(四方氏)と即答。最優先事項として開発が本格始動する。

ノロウイルス検便検査で実績ある独自技術「アンプダイレクト」なら保健所などが困っていた検体からリボ核酸(RNA)を抽出精製する煩雑作業が省け、時間短縮できる。ただ開発にトラブルはつきもの。普段は楽観的な四方氏も「自信はあったが、さすがにプレッシャーを感じた」。

当初想定のプライマーなどの化学物質を新型コロナ用に置換するだけでは難しく、酵素を見直すも新型コロナで世界で酵素が逼迫(ひっぱく)。複数メーカー品を同時並行で評価する事態に。国立感染症研究所が配布する実検体も発表翌週に入手困難となり協力病院を探した。

ノロ検査と違い、臨床検査でアンプダイレクトは普及しておらず、業界では懐疑的な見方もあった。だが、札幌医科大学の協力を得て行った評価実験で、一発で従来法と遜色ないデータを確認する。

流通が止まるゴールデンウイーク前に試薬の提供を間に合わせ、すでに試薬不足で頭を抱えていた地方衛生研究所などからは「救世主にみえた」との声も聞かれた。四方氏は「少しでも役に立ちたかった。何事もやればできる」と力を込める。(京都総局長・松中康雄)

遺伝子解析グループの(前列左から)高岡直子主任、丸瀬英明主任、(後列左から)試薬を持つ二宮健二主任、四方正光グループ長。横はPCR検査装置

製品プロフィル

多数検体の検査効率化で実績ある独自技術を活用。煩雑作業を省き、PCR検査時間を一般的な従来手法と比べて半分の約1時間に短縮した。鼻咽頭拭い液だけでなく、唾液を使う検査にも適用可能。このほど海外展開を本格化したほか、複数検体を混ぜて検査し、日本の検査能力底上げが期待される「プール方式」の検証も進む。

日刊工業新聞2021年2月4日

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