料金プラン“1本勝負”に出た楽天モバイルの焦点
楽天モバイルが携帯通信サービスのテコ入れに踏み切った。4月から月間データ利用量に応じた料金体系に改め、1ギガバイト(ギガは10億)までの場合は無料とする。通信大手の廉価プランに対抗して顧客層を拡大する狙いがある。ただ拡大に手間取れば、携帯通信事業の黒字化は遠のきかねない。コンテンツを充実させてデータ通信を多く使ってもらったり、電子商取引(EC)などの他事業との相乗効果を高めたりする施策も求められる。(取材=斎藤弘和)
「全ての人に最適なワン・プランだ」―。楽天の三木谷浩史会長兼社長は胸を張る。
新料金はデータ量が1ギガバイト以下なら無料。1ギガバイトを超えて3ギガバイトまでの場合は980円(消費税抜き)、3ギガバイトを超えて20ギガバイト以下ならば1980円だ。20ギガバイトを超えた場合は無制限とし、現行と同額の2980円となる。プランはこれ一つであり、利用者は事前に選ぶ必要がない。
1ギガバイト以下を無料とする施策は、既存顧客のつなぎ留めに役立ちそうだ。楽天モバイルは従来、先着300万人を対象にデータ通信料を1年間無料にしてきた。無料期間の終了と同時に離反してしまうような例を一定程度防げる可能性がある。また、オンラインだけでなく店舗でも申し込みを可能とした事で、他社の従来型携帯電話(ガラケー)を利用中の高齢者などの転入も狙えるとみられる。
ただ楽天モバイルは今回の値下げで、携帯通信事業を2023年度に黒字化する計画を守れるかが焦点となる。楽天の三木谷会長兼社長は「解約率も下がるので黒字化のタイミングは変わらない」とするが、これまで以上の“薄利多売”を実現できるか試される。
データ通信を多く使ってもらうことで、客単価を上げる努力も重要になる。それには「大容量を必要とするようなコンテンツが出てくることが大事」(MM総研の横田英明常務)。この観点でNTTドコモをはじめとする通信大手は、動画配信サービスなどに力を注いでいる。
一方、楽天は「回線スピードが上がっていけば、自然と(データ使用量が)増えていく」(三木谷会長兼社長)とし、コンテンツ拡充を急ぐ様子ではない。背景には既にECや金融といった事業を幅広く展開しており、「周辺部分は、ほぼ完璧」(同)との自負があるようだ。
通信事業の新規ユーザーを“本業”のECに送客できれば、グループ全体の収益は改善する。そうしたエコシステム(生態系)を進化させられるかが、あらためて問われる。