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お金がタダになる話を聞いてほしい。AIによる雇用破壊の先に待つもの

セカチューの片山恭一オリジナルエッセイ

近い将来、お金はタダになると本気で思っている。「そんなバカな」と言われても、どう考えてもそうなるとしか思えない。現在でも給付金というかたちで、欲しい人は10万円をタダでもらえている。少しずつそういう機会が増えていくのではないだろうか。「コロナ」による休業や営業自粛は、いずれAIによる雇用破壊というかたちで人類規模のものになる。それが常態となれば、どうしてもお金はタダになるしかない。

もともとお金はタダみたいなものである。ドルにしても円にしてもユーロにしても、すべての法定通貨は広告紙や新聞紙と同じ紙切れに過ぎない。貨幣は人類がつくり出した最強のフィクションと言っていいだろう。お金が価値をもつのは「みんなお金は価値あるものだと信じているらしい」と、全人類が相互に信じているからである。お金がタダにならないのは、多くの人が「お金を稼ぐことは必要だ」という幻想をもっているからである。

たしかに昔はそうだった。ぼくたちが子どものころは、おこづかいとしてもらうお金はおやつを買ったり、プラモデルを買ったりするものだった。親が稼ぐお金にしても、暮らしに必要な衣食住をあがなうためのものだった。いまはそうではない。少なくとも世界中を流通しているお金の大半はまったく別のものになっている。お金は食べ物や服やプラモデルを買うためのものではなく、さらなるお金を生むためのものである。

金融経済と実体経済の乖離については多くの人が指摘している。金融市場で取引されるお金の額は、各国の中央銀行が発行する紙幣の量をはるかに超える。おそらく何十倍にもなるだろう。いまや世界を流通しているお金の大半はコンピュータやインターネット上にしかない。いわば数字だけのものである。金融市場ではナノ秒単位で数字のやり取りをして、儲かったとか損をしたとか言っている。面白いのだろうか?

言い方を変えれば、現在の資本主義(金融経済)ではお金はお金としか交換されない。だってお金の大半は数字に過ぎないのだから。数字は数字としか交換できない。ビル・ゲイツの資産が1000億ドルを突破したとか、アップルの時価総額が1兆ドルを超えたとか言っても、所詮は数字だけのことである。違うと言うなら、リアルな1000億ドルや1兆ドルを見せてほしい。貨幣がフィクションであるというのは、そういうことである。

だからお金持ちはますますお金持ちになるし、貧乏人はますます貧乏になる。70数億の人類にすさまじい経済格差が生じ、偏在の度合いが年々大きくなっているのは、マルクスが『資本論』を書いたころとは経済のあり方がまったく変わっているからだ。現在ではお金はお金によってしか増えない仕組みになっている。そしてお金によってお金を増やすという不毛な仕事に従事できるのは、幸か不幸か人類の1%ということになっている。

つまりぼくたちにとってお金はどうでもいいものになりつつある。「どうでもよくない」と言っても、大半のお金は1%の人たちの手にあるのだからしょうがない。ぼくたちは彼らのお金をタダでもらうことになる。お金がタダになれば、誰も「お金を稼ぐことは必要だ」とは思わなくなるだろう。とくに若い人は、お金を稼ぐことよりも、自分が本当にやりたいことを考えたほうがいいと思う。そのほうがきっと楽しい人生が送れるはずだ。

今回の「コロナ」はひとつのきっかけになるだろう。ぼくが知っているお医者さんは、勤めていた病院を辞めてオンライン診断の専門医になった。こういう人がどんどん出てくると思う。これまでのように会社に就職してというのではなく、一人ひとりが自分で働き方のスタイルをつくっていく。そういうケースが増えてくるだろう。自分の好きなことをしながら、そこそこに暮らしていける。人を騙してお金を儲けるよりは、そっちのほうがいいにきまっている。

アフター・コロナについては、いろいろなことが言われている。時代の流れが大きく変わろうとしているのは間違いない。どう変わるのか?幸せの意味が変わると思う。これまではお金を稼ぐことで幸せになろうとしてきた。しかし経済が伸びることによって幸せになる時代は終わった。これからは別の方法で幸せになることを考えなければならない。

人生の幸せを考える時期にきていると思う。どうやって幸せになるのか。お金は必要だけれど、それで幸せになれるというものではない。自分で自分を幸せにはできないからだ。幸せは向こうからやって来るものである。誰かを幸せにすることによって、そのお裾分けで自分も幸せになる。ぼくたちは人に喜ばれることをしたいのだ。誰かの役に立ちたいと、みんなが思っている。

自分の得意なことで人を喜ばせる。その余熱で自分も幸せになる。これからは一人ひとりがクリエイターとして人生の主役になる。そういう生き方をぼくたちの手でつくり上げていこう。

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