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日本が嗅覚センサーで業界標準化に挑む

物材機構や京セラなどがフォーラムを発足
日本が嗅覚センサーで業界標準化に挑む

ブレンダーは時間や保存状態によって味や香りが変わるウイスキーの原酒を複数種類配合(サントリー)

 物質・材料研究機構と京セラ、大阪大学、NECなどの7機関は4日、小型嗅覚センサー(MSS)の業界標準化に向けて「MSSフォーラム」を11月1日に発足すると発表した。実証実験計画を公募して、新たな参画企業を募る。参画企業にはセンサーデータの評価技術など開発環境を提供し、用途開拓と標準化を促す。

 MSSは感応膜に香り成分を吸着させて変形させ、素子の歪みを電気的に検出する。物材機構が開発し、7社でアライアンスを組み、評価技術を整えてきた。酒類のアルコール度数や果実の熟度などの計測に成功している。

 感応膜と香り成分、センサーの応答パターンの組み合わせが膨大に存在するため、データをためて人工知能(AI)技術で解析して計測精度を高める。新フォーラムとしてデータベースや人工知能技術を提供して開発とデータ標準化を加速させる。

2017年10月5日



嗅覚の再現はまだ人頼み


 設計、生産、検査など製造プロセスのあらゆる作業で機械化が進む中、いまだに人間の能力に頼らなければできない項目も残っている。その一つが官能評価だ。特に「味」「におい」についての評価は機械化が進んでいない。人間は体調や好みで感じ方が変わる。その点、機械であれば普遍的な検査が可能だ。機械は官能評価の現場で活躍できるのか。

 嗅覚について、ウイスキーの調合を行うサントリーの福與伸二チーフブレンダーは「機械ではとらえられない微かな香りも人は見分けられる」と胸を張る。ある香りの中で「果物のよう」「甘い」といったキーワードに注目すると、その香りがクリアになるという。

 「スモーキーな」香りの度合いや微生物の混入による異臭など、品質管理の基準になるようなにおいを測定できる装置はある。

 しかし「ブレンダーは時間や保存状態によって味や香りが変わるウイスキーの原酒を複数種類、配合する。これは機械では置き換えられない」(福與チーフブレンダー)。それぞれ原酒の状態が異なる上に、蒸留の精度が低いためいろんな成分が混じっているのも、機械で測定しにくい要因だ。
 
 東京工業大学の中本高道教授は嗅覚センサーの難しさを「人が強く感じる香気成分は、濃度がそこまで高くないことが多い。また化学物質によって応答性に違いがある」と説明する。

 また官能評価における機械の活用については「大量にあるサンプルからいくつかの候補を絞り込むという、補助的な使い方ができる」と提案する。

 人は同じにおいを嗅いでいると嗅覚が疲労し、感度が鈍ってくる。数をこなすような試験には機械の方が適していると見る。

 中本教授は水晶振動子を使った嗅覚センサーを開発している。塗布した有機膜ににおい成分が吸着すると発振が変わることで、においを判断する。人の嗅覚閾値とも相関性を持たせられ、センサーで解析した情報を元にそのにおいをある程度再現することができた。

 サントリーの福與チーフブレンダーは「ブレンダーが作ったものを分析するという方法ならば、機械との共存はありえるかも」と、可能性を示す。

 ブレンダーが配合したウイスキーを人の感覚と整合性のある嗅覚センサーで測定し、そのにおいを再現できれば、品質保証や新製品の開発に役立ちそうだ。
※内容、肩書は当時のもの

2013年7月15日

政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
実現すれば色々なビジネスの可能性が見えてきそう。サントリーや東工大の取り組みを取り上げた記事は2013年に掲載されたものですが、嗅覚にしても味覚にしても、機械は成分を細かく検出することは得意でも、それが組み合わさると実際にどんな匂いや味わいになるかを評価するのは難しいとの話でした。標準化は日本が不得手な所ですが、一方でセンサーなど電子部品は強い分野。これからIoTによりセンサー類が生活に入り込むようになれば、人の五感をより理解するソリューションのニーズは高まるはず。この取り組みは日本の戦い方のヒントになりそうです。

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