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接客・営業で進むリモート化。手段は変わったが、本質は残った

接客・営業で進むリモート化。手段は変わったが、本質は残った

日本サポートシステムのウェブ商談のイメージ、現場の映像を見ながら技術提案(同社提供)

2021年はリモートでの接客・営業が試行から定着に移る年になる。20年に各業界で新しい業態が試され、利点と欠点、お客さまのかゆいところが見えてきた。このかゆいところに手を伸ばし、心地よいサービスに昇華させるのが21年の初仕事になる。オンラインでつないでコロナ禍をしのぐのではなく、新サービスの定着に向けた差別化と細分化が加速する。大切なのは深掘りだ。ベンチャーも老舗もビジネスチャンスを見いだしている。

リアルにミニマム店舗

「ミニマム店舗を広める」とタイムリープ(東京都千代田区)の望月亮輔社長は力を込める。同社は2019年6月に設立し、すぐコロナ禍に直面した。リアルな店舗に画面を配置し、遠隔から接客するサービス「RURA(ルーラ)」を展開する。20人が100施設で接客できるのが特徴だ。リリース半年で200社以上から引き合いがあった。ホテルのフロントや住宅展示場などに導入が進む。

タイムリープの遠隔接客ブースイメージ(同社提供)

21年は店舗の最小単位に挑戦する。ショッピングモールなどの施設事業者とブース式出店の計画を進める。地方銀行や旅行代理店、携帯電話の相談窓口など、公共性が高く地域からなくなると不便なお店をブース式で出店させ、遠隔で接客するモデルを描く。望月社長は「商業施設は出店の敷居を下げ、テナントは地域に面的に出店できる」と説明する。ルーラは全国どこででも接客ができる。将来は地元でも旅行先でも自分専属の担当者に相談し、なじみの関係を築けるようになる。

イベント配信サポート

ブイキューブは本業のウェブ会議システムにサービスを足して売り上げ倍増を目指す。21年度は20年度比45%増の115億円、22年度は同93%増の153億円が目標だ。このサービスの柱がイベントDX事業だ。同社はウェブ会議システムを提供してきたが、このシステムを使ったイベントの配信までサポートする。展示会や商談会、採用面接、講演会などイベントに合わせて必要な交流機能をカスタムして提供する。

ブイキューブの配信イメージ(同社提供)

間下直晃社長は「システムだけで完結しない、人のサポートが必要な領域が我々の強みを発揮できる」と強調する。

イベント会社は派遣する人数で売り上げが決まってしまう。同社は人によるサポートで無償のウェブ会議システムでは完結しない領域を狙う。

同時に技術力で必要なサポート人数を減らして利益を出す。間下社長は「イベントもサブスク(定額制)契約が多い」と説明する。人工ビジネスには陥らない。サービスと技術力でイベントを深掘りする。

遠隔で設計・見積もり

接客に専門性を必要とする分野でもリモート化が進む。FA.Regalo(FAレガーロ、栃木県小山市)はロボット導入の入り口にあたる要件定義や構想提案を遠隔で行う。技術系商社向けに要件定義の遠隔代行サービスを提供する、いわばリモート専業だ。

青木伸輔代表取締役は「1ライセンス月額40万円(消費税抜き)のサブスクで提供する。商社にとっては技術の分かる人材を育てるよりもリーズナブルになる」と説明する。コロナ禍で契約が3倍に増え、月60件程度の要件定義を請け負う。FAロボットインテグレーターのオフィスエフエイ・コム(栃木県小山市)の子会社として技術力には定評がある。

この要件定義はインテグレーターの技術営業や技術者が無償提供してきた仕事だ。現場を見てほしいと呼ばれ、課題を整理して自動装置の構想を描く。ただ必ずしも受注にはつながらなかった。青木代表は「移動工数が削減でき大幅に効率化できた」と目を細める。

FAレガーロの遠隔要件定義のイメージ。遠隔で営業の敷居を下げた(同社提供)

日本サポートシステム(茨城県土浦市)の朝日智執行役員は「コロナ前に比べ相談件数がかなり増えた。ウェブ商談のおかげだ」と振り返る。同社では現地調査を遠隔対応するため、アクションカメラ「GoPro」で顧客に撮影してもらい、それを元に設計や見積もりを起こす。朝日執行役員「業界では仕事が減り大変だと聞く。だが我々は忙しい。これは顧客がリモートで仕事ができるインテグレーターを選別しているからではないか」と指摘する。リモートは情報が限られるため、技術力が求められる。

課題は映像に映らない情報だ。朝日執行役員は「顧客は省力化したい工程に集中しがち。我々は前後工程や工場全体をみて全体最適を提案する」と説明する。そこで定点カメラの俯瞰(ふかん)映像で全体を把握し、作業者目線の映像で安全対策を検証している。

リモート化で接客や営業そのものが見直された。手段は変わったが本質が残った。営業力を増す機会になっている。

データ/オンライン商談拡大

富士キメラ総研(東京都中央区)の調査によると20年度のウェブ会議サービス市場は156億円の見込み。24年度には20年度比38%増の216億円に拡大する。オンライン商談サービス市場は20年度の44億円(見込み)から同118億円と2.7倍に、リモートアクセスサービス市場は20年度の380億円(見込み)から同590億円と同55%増に成長する。

通信機器や通信サービスの国内市場が横ばいか漸減と予測される中で、コロナ禍で新しく生まれた成長市場といえる。ただウェブ会議システムは導入が一巡するため、伸びは緩やかになると予想されている。そしてオンライン商談サービスはウェブ会議システムとも競合する。そのため文字起こしや商談プロセスの可視化などの差別化が重要になる。商談に特化したデータ分析の機能強化が進むと予想されている。

KEYWORDリモート接客・営業

ウェブ会議システムなどを介して、遠隔で接客・営業すること。つながることは当たり前になり、接客画面に映らない部分をいかに補い、提案力を磨くか競争している。ウェブ会議システムのようなツール側は機能を作り込み、サービス側はツールだけでは満たされない部分で工夫を凝らす。サービスとツールの組み合わせが妙味になる。移動などの経費を大幅に削減できたため、サブスクでの営業代行など、新しいビジネスモデルも生まれている。

日刊工業新聞2021年1月5日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
オンライン営業のCMをみて「営業が現場に行かないでどうするんだ」と言っていた。営業マンもオンラインで営業するようになりました。現場で集めていた情報の補完が課題です。店舗でも、例えばソファーとランプをみてからベッド売り場に来たお客と、仕事用のデスクをみてベッド売り場に来たお客では薦める商品が変わります。FAだと工場の搬入口の大きさを確認しないと装置が入らないことがあります。そしたら入口でバラして、現場で組み立て直して精度出しはやり直し。お客や現場を観察して得ていた情報をオンラインでも得られるようなツールや工夫が大事になります。

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