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コロナで拡大の“リモート接客”、新市場にベンチャー各社が名乗り

コロナで拡大の“リモート接客”、新市場にベンチャー各社が名乗り

リビングのテレビで鳥のアバターが質問に答える(タイムリープ提供)

新型コロナウイルス感染拡大でリモート接客が広がりつつある。小売店やホテルの受付などにテレビ会議システムをつないで、画面越しに応対する。接客スタッフが現場にいないため3密を回避し、接客担当者の分散化や負荷平準化も狙える。同時に接客データを集めて分析してデータをもとに接客シナリオを改善できるようになる。ツール提供から接客改善まで新しいビジネスが立ち上がろうとしている。(小寺貴之)

アバターで接客 担当者を分散・負担平準化

「(顧客は)呼び出しボタンを押さない。受けの姿勢ではなく、スタッフから声かけしないと機能しない」―。タイムリープ(東京都千代田区)の望月亮輔社長は従来の遠隔接客システムの課題をこう説明する。インターホンなど、遠隔接客システム自体は古くから存在する。ただ顧客が困ってから呼び出されて応対するのではなく、困らないように先回りするのが接客だ。

同社の遠隔接客ツール「ルーラ」ではカメラ映像から人物を検出し、接客オペレーターに来客を知らせる仕組みにした。例えば住宅のモデルルームでは玄関のモニターで出迎え、リビングのテレビでも接客する。スタッフが同席しないため、顧客がリラックスして滞在時間が長くなる。望月社長は「顧客は暮らしをイメージしやすく、浮かんだ疑問は遠隔で回答がもらえる。スタッフが常に張り付いているより購入率が上がった」と説明する。

接客員20人で100店舗に対応することも可能だ。望月社長は「1店舗で2・2人分の仕事があると3人を配置しなければならなかった。遠隔接客で0・2人分を補えば2人ですむ」という。初期導入費を10万円(消費税抜き)、利用料を月額5万円(同)からで提供する。

ただ普通に画面に人を映すだけだと、行き交う人の足を止める効果が小さい。田中印刷所(滋賀県彦根市)はアバター(コンピューターグラフィックスの分身)をヒト型ディスプレーに映す遠隔接客システムを提案する。接客者の表情認識やアバター描画は米Hyprsense(カリフォルニア州)の技術を採用。スマートフォンやパソコンのカメラ越しに接客する。田中由一社長は「ディスプレーがヒト型だと足を止める確率が上がる」と説明する。

田中印刷所のアバター接客システム(スマホでの認識描画デモ)

同システムはまだ開発中。日本郵便メンテナンス(東京都江東区)が事業化を検討中だ。同社商品開発営業部の中本明利部長は「対面接客が難しくなっている。まずは受付や郵便窓口に提案する」という。

対面と融合 データ分析、接客シナリオ改善

展示会も対面とリモートの融合が進んでいる。プレイド(東京都中央区)は販促ツールの展示会に融合方式で出展した。ブースに4枚の大型画面を並べリモートで対応する。会場では来場者の足を止める女性スタッフが2人。商品に興味ある人を画面の前に誘導しつつ、簡単に何を探しているか確認する。製品説明や専門的な内容は本社で働くスタッフがリモートで対応する。

プレイドのオフラインとオンラインのハイブリッド出展

現場は2―3人と少人数に抑え、遠隔に約10人が待機する。川久保岳彦コミュニケーションディレクターは「実際に会場に行くと移動時間や待機時間で実質8時間ほど拘束される。だが実際に応対するのは1時間。リモートなら残りの7時間を業務をしながら対応できる」と説明する。

今後はリモート接客が電子商取引(EC)やスマートフォン用アプリケーション(応用ソフト)の機能の一つになると予想される。同社はウェブサイトやアプリの閲覧情報などを分析する顧客体験(CX)ツール「カルテ」を展開する。カルテとビデオ会議の連携機能を開発した。エンドユーザーがECサイトをたどった行動履歴を参考に遠隔接客を始められる。川久保ディレクターは「既存のツールは、ビデオ会議が始まってから相手の状況を聞き出して把握する。それでは顧客体験がブツリと切れてしまう」と指摘する。カルテはリアルタイムに行動履歴がわかる。顧客の関心や困りごとに先回りした対応が可能だ。

リモート接客では音声からテキストや声の抑揚、映像から表情やうなずきの同調率などもデータ化できる。タイムリープの望月社長は「接客のロールプレーイングや接客シナリオをデータを使って高度化したい」と展望する。既にNGワード検出など簡単な技術は実用化されている。リモート接客は対面の接客とはまた違った専門性やノウハウが必要だ。

対面では、商品のとがった部分をお客に向けない。ゆっくりとした所作で相手に配慮を見せる。接客員は、こうした細かなノウハウを身体にしみ込ませて、高度なサービスを作ってきた。リモートでは画面の中だけでお客に配慮を見せられるかどうかが課題だ。

一方でコロナ禍でテレワークやオンライン会議が広がり、消費者もリモートでのやりとりに慣れ始めた。接客への要求ハードルが急速に下がっている。いまなら遠隔接客ツールと、接客の改善コンサルの両方がビジネスになる。システム構築から伴走支援まで獲得できれば息の長い収入になる。この新市場をベンチャーが開拓できるか注目される。

日刊工業新聞2020年9月22日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
リモート接客でインサイドセールスが高度な接客職になるかもしれません。店頭の販売員さんはお客がどのコーナーを見て回ったのか把握して声をかけていたりします。入店時のいらっしゃいませで存在を知らせて、お客が商品を探してキョロキョロしだしたらお困りごとを聞きつつ、どんな商品を求めているか絞り込む。こんな風にお客に呼び出される前にお客を知ることが営業成績につながったりします。リモートの画面一つでロールプレイングをして、相手におもてなしを届ける。これを支えるシステム開発が進んでいます。

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