“衛生バエ”をイチゴやマンゴーの受粉に活用!医療にも重宝の「ハエビジネス」に流行の兆し
馭者(ぎょしゃ)の居眠り運転で、乗客を乗せた馬車は崖下に墜落してしまう。異変に気づいたハエは馬車の屋根から飛び上がり、人間たちの悲惨な最期を眼下に悠々と青空の中を飛んでいく。
横光利一のデビュー作『蠅(はえ)』はハエの視点で、さまざまな事情を抱えた乗客の人間模様を活写する。結末は1匹のハエだけが生き残る。害虫と嫌われるハエの俊敏さを描き、人の命のはかなさを際立たせた。
ジャパンマゴットカンパニー(岡山市)が出荷の最盛期を迎えている。製品はヒロズキンバエのさなぎだ。さなぎは2―3日で羽化しハエになる。ハウス内を受粉して飛び回り1―2週間で一生を終える。ミツバチが減少し、代替としてイチゴやマンゴーの受粉に重宝されている。
社長の佐藤卓也さんによると、糖尿病による壊疽(えそ)の治療など、医療に幼虫を用いてきた実績が衛生面で信用を得ることにつながった。植物工場では紫外線を感知して活動するハチが使えず、臭気に反応するハエが好まれている。
成功の肝は衛生管理を徹底した増殖技術を確立したことにある。「ハエだって不衛生との観念を変えれば商品になるんです」。横光利一も、ハエのこんな活躍は予想できなかっただろう。
日刊工業新聞2021年1月14日