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今からでも知っておきたい「災害死」を減らす治療の優先順位

阪神大震災は人口の1.5%が総傷病者、「中等症」と「重症」を分けること
 災害医療はトリアージに始まりトリアージに終わると言っても過言ではありません。トリアージは、災害医療の目的である『限られた医療資源を有効に使い、一人でも多くの命を救うための医療』を原点として考えられた医療方法の一つです。

災害医療と救急医療は大きく違う


 具体的には、軽症・中等症・重症・死亡(生命兆候がない重篤な状態)に分けて、それぞれに優先順位をつけて必要な医療を提供していくことです。

 歩けるような軽症者と生命兆候がない重篤な状態の傷病(しょうびょう)者には、早期の治療介入はなく待機をしてもらうことになります。

 これは生命兆候がない重篤な傷病者には、救命処置や治療は行わないということになります。残念ながらそのまま看取(みと)る形になります。

 つまり、軽症者と死亡もしくは重篤すぎる傷病者は、医療資源を使わずに対応するというのが第1のトリアージと考えて下さい。ここが平時の救急医療と大きく違うところです。

 第2のトリアージでは中等症と重症を分けることが重要になります。中等症とは今すぐ生命に関わる重篤な状態ではないが、何らかの処置が必要であり、場合によっては重症化するかもしれない傷病者です。

 また重症とは命に関わる重篤な状態で一刻も早い処置を必要とする傷病者であります。これは平時の救急医療に準じています。

 大規模災害では阪神・淡路大震災をモデルにした統計で、総傷病者数は対人口比の約1・5%になります。重症者数はその総傷病者数の約13・7%と推計されます。

 人口の1・5%を早期治療の対象とすると、医療資源や人材が不足するのは自明の理で、中等症、重症を適切に分けて医療提供をすることで「避けられた災害死」を減らすことにつなげます。ここがトリアージの重要な点になります。

「差別的治療」の起源と日本の現状


 トリアージ(Triage)の起源については、フランス革命の時代に、戦場における負傷兵の死亡率の高さから、戦闘後だけではなく、戦闘中にも治療を行い、それが軽症・中等症・重症を分けて必要な傷病者のみを治療していく方法になったようです。

 日本では明治時代に、軍がトリアージは赤十字国際条約で禁止されている「差別的治療」に当たる、として導入をしなかったようです。

 この「差別的治療」という意味があるため、適切なトリアージであったかどうかを遡及(そきゅう)して検討され、法的処置まではないにしても社会的制裁をかけられることがあります。医療を提供する側からみても複雑な問題です。

 各医療機関では災害医療の訓練を行い、繰り返すことで不適切なトリアージのないよう努力しています。
(文=高山泰広・花と森の東京病院救急科/脳神経外科医長)
日刊工業新聞2016年3月18日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ドラマ「救命病棟24時」が好きでトリアージという言葉を意識するようになった。江口洋介演じる進藤先生のようにはなかなか神対応は実際には難しいだろう。もし自分の身内が災害被害にあって横に倒れていたとする。通常なら少しでも生きる可能性がある限り早く措置してもらいたいと思うのが心情だが、それを割り切ってトリアージを優先することを納得できるだろうか。ほぼ息が絶え絶えでも。記事にもあるように「中等症」と「重症」を分けることは、医師側の判断だけでなく、人間の心理とも対峙しなければいけない。地道な作業だが、多くに人の心理を少しでも冷静にさせる手法を認知させていく必要がある。

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