熱処理の技術革新はこうして進む。埼玉・川越の若きエンジニアたちの挑戦

雑誌『型技術』連載 金型の未来を拓く技術者たち

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オリエンタルエンヂニアリングは、熱処理設備の製造・販売を中心に、熱処理やコーティングの受託加工も手がける表面熱処理技術の総合メーカーだ。熱処理やコーティングに用いる装置をすべて自社開発しており、装置メーカーとユーザーの視点を併せもつことで、付加価値の高い技術を提供している。

同社の研究開発部に所属する小松元是さんと清野裕太さんは、受託加工のための新しい熱処理手法の開発や新規設備の立上げに携わっている。機械部品や金型の高機能化が求められる中、熱処理やコーティングの分野でもスピーディな技術開発で顧客ニーズに応えていく姿勢が欠かせない。現場で働くスタッフと連携しながら、それぞれの開発テーマに取り組む2 人を取材した。

同社は熱処理加工から事業をスタートし、熱処理設備そのものの製造に領域を広げていった。70 年近い歴史の中で独創性のあるさまざまな設備を開発しており、1967 年には滴注式ガス浸炭窒化炉「UNIC」が日刊工業新聞社の十大新製品賞を受賞。その後も、光輝熱処理炉「SPERIA」や、プラズマCVD(化学蒸着)法による金型へのコーティング技術などが高い評価を受けてきた。

現在は、熱処理設備の製造・販売・補修を行う設備事業が売上げの7 割を占め、受託加工と合わせて年間約60 億円を売り上げている。同社では伸びしろのある受託加工の受注拡大に力を入れており、2017 年に稼働した川越第二工場(埼玉県川越市、別名「ハイテクセンター」)に最新の熱処理設備やプラズマCVD 装置のほか、FE-SEM(電界放出型電子顕微鏡)やXRD(X 線回折装置)など高度な分析装置を導入。新しい量産手法の開発を進めている。そこで中心的な役割を果たしているのが2011年に入社した小松さんと清野さんである。

最新の熱処理設備やプラズマCVD 装置、各種分析装置を設備した川越第二工場(別名「ハイテクセンター」)

独自技術に惹かれて入社

小松さんは、秋田大学理工学部で超硬合金の材料開発を研究テーマに選んだ縁で、金型や切削工具、その周辺技術に興味をもった。就職活動中、同社が手がける金型向けのプラズマCVD 技術に着目。担当教官の「優れた技術をもつ良い会社」とのお墨付きもあり入社を決めたという。

開発部門を希望したが、半年間の新人研修を終えて配属されたのは受託加工を担う加工部門だった。熱処理に使う炉を現場で操作するオペレーターとして1 年間、夏は40℃ を超える過酷な現場で24 時間の3 交代勤務に就いた。その後さらに1 年間、設備部門で顧客に納入した熱処理設備の補修・メンテナンスに携わった。

最初の希望とは違ったものの、「体力があったので意外と楽しく働けた」と小松さんは振り返る。また、現場を2 年間経験したことは研究開発部での現在の業務にも役立っているという。「以前の上司は、口を酸っぱくして『量産を想定した研究・開発を行え』と説いていた。実験設備で良い結果が出ても、量産で使えなければ意味がない。現場を経験させてもらったからこそ、『量産段階で何が問題になるのか』を想像する力が身についた」(小松さん)。

清野さんも同社の技術力に魅力を感じて入社した一人だ。高等専門学校から千葉大学工学部に進学。高専時代の担当教官が亜鉛ダイカストの研究をしており、ダイカスト金型に施すことで離型剤を削減できるプラズマCVD 処理を開発した同社の評判を耳にして、「こんな会社があるのか」と興味をもった。

新人研修後すぐ研究開発部に配属となり5 年間、仕事や外部の講習会を通じて熱処理を学んだ。大学では環境工学を専攻し、熱力学の知識はあるものの熱処理についてはほぼ素人だったので、基礎から学べたことはありがたかったという。そんな清野さんが「すごく勉強になった」と語るのが、研究開発部の次に配属された設備部門での経験だ。同社では、顧客に熱処理設備を納入した後も、必要に応じて補修やメンテナンスを行っており、清野さんはエンジニアとしてこれに携わった。補修やメンテナンスは顧客の工場に短期出張して行う。中でも炉を解体して再構築するオーバーホールは1 カ月以上かかる大仕事。レンガを積む築炉工などベテラン職人らに指示を出しながら、清野さん自身も汗を流した。「指示を出す立場ではあったが、反対に教えられることが多かった」(清野さん)。2017 年に研究開発部に戻ってからも、設備部門から声がかかれば国内外を問わずサポートに入る。

研究開発部で働く今、2 人は現場とのコミュニケーションを重視している。「研究・開発に携わっていると現場のスタッフに協力を仰ぐことが多い。そのために良い人間関係を築くことが大事だし、『受注状況はどうなのか』、『どんな課題を抱えているのか』など現場の状況を把握しておくことも欠かせない」と小松さん。清野さんも、「研究開発部は上司を含めて3 人の部署なのでどうしても視野が狭くなりがち。以前の上司の口癖だった『謙虚な気持ちで、素直に』を心がけて、現場のスタッフから常に教わる気持ちでいたい」と話す。

熱処理の性能向上に挑戦

少数精鋭の研究開発部では、各人がそれぞれテーマをもって業務にあたっている。小松さんが目下奮闘しているのが真空浸炭処理のプロセス開発である。

FE-SEM(電界放出型電子顕微鏡)を操作する小松さん。高分解能の電子顕微鏡で、分析に特化した二つの検出器を装備する

真空浸炭は、定圧に保持しかつ雰囲気制御した炉の中でワークの表面に活性炭素を浸透させる熱処理の一種で、部品や金型に耐摩耗性や高靱性を付与できる。一方、「セメンタイト」と呼ばれる組織の析出をいかに抑えるかが課題となっている。セメンタイトはワーク中に炭素が過剰に入り込むことで析出し、その部分が脆くなるため破壊の起点となりやすい。真空浸炭では90°以下の鋭角部分にセメンタイトができやすいことが知られており、処理するワークの形状を制限せざるを得ない。そこで小松さんは、炉に取りつけたセンサから得られる情報をもとに、処理条件を変えながらセメンタイトが析出しにくいプロセスを確立しようと取り組んでいる。「セメンタイトをゼロにするのは原理的に難しいが、少しでも抑えられるよう粘り強くトライしていきたい」(小松さん)。

2020 年に川越第二工場に新設された最新の真空浸炭炉には、同社が特許をもつ熱伝導式の水素センサが設置されている。センサを使って炭素量を常に監視することで、処理品表面を狙った炭素量にすることができ、顧客の用途に応じたきめ細かい処理を可能にした。また、熱処理後の硬さや浸炭する深さのばらつきを表す工程能力指数(Cpk)が高いのも特徴で、通常1.33 以上で合格とされるところを川越第二工場の設備では1.8 や2.0 といった数値を出している。これらが評価され、同社ではハイブリッド車用部品の真空浸炭処理を受注しており、今後は真空浸炭炉の増設も予定する。小松さんの取り組むプロセス開発で付加価値をさらに高められれば、顧客への強力なアプローチ材料になる。

金型向け処理工程を改善

清野さんが取り組むのは、ダイカスト金型や温・熱間鍛造金型に使われる「ブラックパールナイト」の工程改善だ。ブラックパールナイトはガス軟窒化処理と酸化処理を組み合わせた同社独自の技術で、金型に耐溶損性、耐焼付き性を付与できるだけでなく低温処理のため処理後の変形や寸法変化がないのが特徴。また、真空浸炭炉でも活躍している水素センサを用いて窒素濃度をコントロールし、耐溶損性を向上させる場合は窒素濃度を高めに、ヒートクラック対策には窒素濃度を低めに設定するといった微調整ができるのも強みである。

ブラックパールナイトはガス軟窒化処理と酸化処理の2 つの工程からなる。清野さんは、川越第二工場にある一室型の真空窒化炉を使ってさらなる工程改善を図っている。「一室型での量産が実現すれば、処理時間の短縮や炉の設置スペース削減といったメリットが見込める」と清野さん。技術上の課題はクリアしており、テストピースにブラックパールナイトを施して耐久試験をしている段階。一室型の真空窒化炉は設備販売も予定しており、すでに顧客からの引合いがあるという。

XRD(X線回折装置)を操作する清野さん。X線を照射して跳ね返ってきたX線の強度と角度を測定する

技術やノウハウの伝承が課題

それぞれの開発テーマに加えて、小松さんと清野さんが共通の課題として捉えているのが技術やノウハウの伝承だ。40 代の中堅社員が少なく、50 代、60 代のベテラン勢と小松さんや清野さんら30 代との知識・能力の差が大きい。特に熱処理設備は20年、30 年と長期にわたって使うため、ベテラン社員の経験が役立つシーンが多いのだという。「補修・メンテナンスの現場では、『あのときは、こうしたら直った』という30 年前の知識が役立つことが本当にある。今のうちにベテランの話を聞いて、自分たちで若手に伝える努力をしないと会社の存続にかかわる問題になる」と清野さんは気を引き締める。

個々の社員がもつ知識やノウハウをデータベース化していくことも求められている。受託加工を担当するベテラン社員であれば、浸炭処理や窒化処理でどのように条件を改善すれば性能が上がるのかの知見があり、改善のための判断も早い。小松さんも「プラズマCVD に詳しい技術者はどんどん退職する。自分が入社したきっかけはプラズマCVD の技術に惹かれたから。先輩に聞けるうちにもっと勉強して、新膜の開発につなげられるような知識を身につけたい」と話す。

上司やベテラン社員がお手本

受託加工の拡大を目指す同社が技術開発の要となる研究開発部に寄せる期待は大きい。2 人もそれに応えようと将来像をしっかりと見据えている。

小松さんは、「お客さまが求める技術を迅速に提供できる技術者になりたい」と語る。量産に耐え得る技術を開発するためにも、「現場を知ることと自分の手を動かして実験すること」を大事にしたいという。清野さんは「社内でマルチに活躍できる人間」が目標だ。開発業務だけでなく新規設備の量産立上げも任せられており、「何かあったときに頼られる人になれれば」と意気込む。

「上司や現場のベテラン社員がお手本」と話す2人。周囲の豊富な知見を貪欲に吸収しながら、技術者としてのさらなるレベルアップを目指している。

会社概要
オリエンタルエンヂニアリング株式会社
所在地:東京都荒川区西日暮里2-25-1
電話番号:03-3802-4311
代表取締役社長:小﨑一雄
資本金:80,000,000円
設立:1952年
従業員数:170人
事業内容:熱処理設備の設計・製造・販売、熱処理加工、コーティング加工
雑誌紹介
雑誌名:型技術 2021年1月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

内容紹介
型技術 2021年1月号  Vol.36 No.1
【特集】変化の時代を生き抜く! 金型メーカーの地域連携・協業のポイント

保有する工作機械やソフトウェア、それらを使える技術者などの資源が限られる中小金型メーカーにとって、さまざまな得意分野をもつ他社との連携は重要なテーマである。協力体制を築くことで自社単独に比べ受注範囲を広げられるほか、新規顧客や新技術の獲得、異業種とのやり取りを通じた人材育成といった効果も見込める。そこで本特集では、金型メーカーを中心に地域連携・協業に取り組む各地のグループを訪問し、連携のきっかけや目的、継続して成果を出すポイントなどをレポート形式で紹介する。

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