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どうする日立、東芝、三菱電機。再生エネにビジネスチャンス

脱炭素化の世界的な潮流は電機大手に新たなビジネスチャンスをもたらす。石炭火力発電などに逆風が吹く一方で、再生可能エネルギーの普及拡大は強い追い風となる。特に脱炭素化の旗を振る菅義偉政権が将来の主力電源と期待するのが洋上風力だ。四方を海に囲まれた島国の日本は洋上風力の導入ポテンシャルが大きいと言われる。“再生可能エネ発展途上国”の汚名を返上し、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す。

日立、欧州で豊富な実績

日立製作所は2020年7月に巨額買収したスイス・ABBの送配電事業を軸に再生可能エネ普及拡大を後押しする。

洋上風力発電所の適地は北海道や東北地方などに偏在しており、関東地方など大需要地に電気を効率的に運ぶための大規模な送電網が必要になる。また、洋上に設置した風車と陸地をつなぐ大容量の海底ケーブル送電網の整備も求められる。

効率的な長距離送電の観点だと直流送電が交流送電と比べて安価だ。直流送電網を整備して再生可能エネの導入を拡大した事例は英国やドイツなど欧州で豊富にある。まさに買収新会社の日立ABBパワーグリッド(スイス・チューリヒ)のお膝元だ。

日立ABBパワーグリッドは送配電に関して世界トップ級のプロダクト・システム・ソリューションを誇る。洋上風力発電機向け72・5キロボルト開閉装置をすでに開発しており、中国で初となる66キロボルト洋上風力発電所向けに22台を受注している。

日本より先行する中国は洋上風力発電について新規設備容量が18年から2年連続で世界一になるなど、国を挙げて導入を推進している。日本が見習うべき点も少なくない。

洋上風力発電所の高稼働が事業者にとって収益性の面で欠かせない。日立は強みのデジタル技術により需要や発電、潮流などを予測して、系統運用の最適化に貢献する。

東芝、風車事業へ参入

東芝は今後10年間で必要になる国内全体の再生可能エネ関連投資が50兆―80兆円と試算する。この商機を逃すわけにはいかない。その戦略の一環として、洋上風力発電に使う風車製造に参入する。京浜事業所(横浜市鶴見区)に主要部品の製造設備を導入し、2021年度上期までに事業体制を整える。現状は主要部品の生産を海外に依存しており、政府の国産化意向も踏まえて事業化に乗り出す。

風車は発電機などを内蔵するナセルや、ブレードとナセルを連結するハブ、電力変換器、タワーなどで構成される。東芝はその中で強みを出せる部品のみ内製し、ブレードやタワーなどは協業相手から調達して風車として組み立てるビジネスモデルを想定する。東芝は陸上用の風車を手がけた実績はあるものの、その件数は少ない。

東芝は22年度までに風力を含む再生可能エネ関連で計1600億円を投資する。その結果、30年度に再生可能エネ関連事業の売上高を19年度比3・4倍の6500億円に引き上げる計画。ただ、世界の風力発電設備市場は欧米や中国勢が上位を独占する。日本勢の多くは関連事業から撤退した。菅政権も大きな期待を寄せる国産化と、経済合理性の両立が今後の課題となる。

三菱電、電力品質保つ

三菱電機は島根県隠岐諸島の再生可能エネ導入拡大プロジェクトに参画。本州と電力系統を連系していない離島で、2種類の蓄電池と内燃力発電所を統合制御して電力品質を確保するシステムを構築した。風力と太陽光発電導入量が従来比3・5倍の約8000キロワットに短期間で拡大できた。また、欧州委員会の研究プロジェクトで高電圧直流遮断器の試験に成功した。現地での直流送電網拡大につながる取り組みだ。

一方で、気象条件に左右される再生可能エネにも多くの難点がある。電力の安定供給を維持するためには、火力など既存電力インフラの効率化も避けて通れない問題だ。

20年12月には、中部電力パワーグリッド(名古屋市東区)向けに設備投資計画の最適化を支援する「長期計画策定支援システム」を国内で初めて納入したと発表した。経年劣化する配電設備などの故障リスクと投資施策の価値を分析し、透明性の高い計画立案・実行に役立つ。同システムは三菱電機のIoT(モノのインターネット)共通基盤「インフォプリズム」と、国内販売代理店を務めるカナダのコッパーリーフテクノロジーズの電力・社会インフラ設備向けの意思決定支援ソフトウエアを組み合わせた。

データ/水素市場30年度に34倍

脱炭素社会の実現には洋上風力とともに、水素の活用拡大が期待される。富士経済(東京都中央区)がまとめた国内の水素関連市場調査では、2030年度の市場規模が19年度比34.2倍の3963億円に成長する見通しだ。

特に発電などに使う水素燃料(水素ガス)が1771億円と同253倍に拡大すると予想している。現在はバスを含む燃料電池自動車(FCV)向けが大半を占めているが、今後は水素の大規模輸送技術を実用化して輸入コストを抑えることで水素発電が本格導入される見込み。

福島県浪江町で太陽光発電を用いた世界最大級の水素製造施設が20年3月に稼働を始めた。東芝や東北電力、岩谷産業などが参画する。蓄電池を使わずに再生可能エネルギーの電力を最大限利用してクリーンで低コストな水素製造技術を開発する試みだ。

KEYWORD・洋上風力発電

政府は非効率な石炭火力発電所を停止し、それによって発生する不足分を再生可能エネルギーでまかなう計画だ。島国で導入余地の大きい洋上風力がカギを握る。

欧州中心に導入が先行する。近年は中国や韓国、同じく四方を海に囲まれた台湾で普及が進んでおり、日本もその後を追う。ただ、発電事業者は風車設置にあたって漁業関係者との地元調整などが不可欠だ。そのため計画の初期段階から国が積極的に関与して環境を整備することが重要になる。

日刊工業新聞2021年1月1日

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