政府の脱炭素方針で「ガソリンスタンド」が危ない!石油元売り、業態転換急ぐ
政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受け、石油業界が対応を迫られている。二酸化炭素(CO2)排出源となるガソリンは需要減少が避けられず、全国をカバーするサービスステーション(SS)は燃料供給だけではない業態への転換が求められる。備蓄が容易な石油は今後もエネルギー供給の「最後の砦」としての役割を失わないが、脱化石燃料の流れは加速している。脱炭素社会の事業モデルをどのように構築するか各社の成長戦略が問われる。
「現行のビジョンは力不足だ。もっと強化しなければならない」。石油連盟の杉森務会長(ENEOSホールディングス会長)は、石油産業の50年に向けた環境目標「長期低炭素ビジョン」を見直す方針を明らかにした。19年5月に策定した同ビジョンは低炭素化の取り組みを示しているが、具体的な数値目標を明記していない。より踏み込んだ内容に見直し、21年3月までに策定する見通しだ。
石連が新たなビジョンに盛り込む意向であるのが、水素とCO2の化学反応で製造する合成液体燃料「e―fuel」だ。CO2フリーの水素を使えば、ネット・カーボンゼロを実現できる。環境性に優れているが、一般にはまだ浸透していない。「これから認知度の拡大を図る」(杉森会長)と対応を強化する構えだ。
商用化に向けてはCO2フリーの水素をいかに安く調達するかがカギで、再生可能エネルギーによる水の電気分解や褐炭のガス化により、水素供給網を築くことなどが検討されている。水素の輸送も液体水素やメチルシクロヘキサン、アンモニアをキャリアとする方式が研究されている。ENEOSは22年度から国内で実証を開始、25年度から海外で再生エネにより電気分解した水素を使った輸送に乗り出す。30年以降に商用化する考えだ。
石油元売り各社はもともと40年頃に石油需要が半減するシナリオで経営計画を組んでいたが、脱炭素社会の進展は想定よりも早まっている。全国のSS拠点数は19年度末に3万を割った。対前年減少率こそ鈍化しているものの、減少には歯止めがかかっていない。電気自動車(EV)用充電器や水素スタンドの設置など電動車への対応が急務だ。
SSの顧客基盤を軸にしたビジネスモデルの創出も求められる。ENEOSはEVユーザーを対象に家庭用電気小売りと組み合わせたサービスなどを志向する。一方、出光興産は旧昭和シェル石油と統合後も別々だったSSブランドを刷新、統一し、23年末までに全6400カ所を切り替える。同時に顧客データを一元管理し、デジタルプラットフォームを構築する。
コスモエネルギーホールディングス(HD)は、SSの店員自らが個人向けカーリースの商談ができるように育成し、リース契約件数を伸ばしている。EV用充電器の設置や電力販売も始め、地域の生活基盤とすべく取り組む考えだ。
次世代型エネルギー供給事業者たるポジションも各社が描く。ENEOSは再生エネ発電容量を22年度までに100万キロワット超に拡大するとともに、水素事業も拡大を図る。出光興産は国内外での再生エネ開発を加速し、30年に19年比20倍の400万キロワットをもくろむ。コスモエネルギーHDは、日本初の風力発電専業会社のエコ・パワーを10年にグループ化し、陸上風力で先行した。洋上風力も本格展開し、30年に100万キロワットの設備容量を目指している。
石油や天然ガスの上流開発を手がける国際石油開発帝石は、水素バリューチェーン推進協議会に参画するなど水素や再生エネに積極的に取り組む姿勢だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などと共同でメタン合成技術も開発している。各社とも脱炭素社会を見据え、事業モデルの再構築を急いでいる。(編集委員・川口哲郎)