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有松絞をドイツから逆輸入、「伝統工芸と思わせない」戦略が面白い!

有松絞をドイツから逆輸入、「伝統工芸と思わせない」戦略が面白い!

有松絞のデザインの要となる「下絵」工程

名古屋市緑区で江戸時代から続く伝統工芸品「有松絞」。スズサンは“ドイツ生まれ”という、産地でも極めて異色の存在だ。ブランド「suzusan」の服やストールなどは世界で高く評価されパリやミラノ、ニューヨークの一流ショップで扱われているほか、「クリスチャン・ディオール」など有名ブランドに生地を供給した実績もある。満を持して日本での展開にも本腰を入れ始めた。

新しいデザイン

「元々、有松絞に興味はなかった」。村瀬弘行社長は笑って振り返る。有松絞職人の家の5代目が目指したのは芸術家だった。2003年には芸術修行のため英国に渡った。そんなある日、父から「有松絞の展示会を英国で開く」と連絡を受け渋々手伝うことに。

それが転機となる。海外の視点で、あらためて見た有松絞は新しいデザインとして映った。「魂が震えた」(村瀬社長)。その後、ドイツへ移り意気投合したルームメートと08年に有松絞の会社を立ち上げた。

当初は数本のストールを手に欧州各地のセレクトショップに飛び込みで売り歩く日々。門前払いは数え切れないほど食らった。併せて欧州人の生活になじむよう商品改良を重ねた。「有松絞と言えば木綿」(同)という固定概念にとらわれずカシミヤなど洋服用素材を使用した。一方、染めでは伝統技法を駆使して多彩で独特なデザインを表現。「日本の伝統工芸品とは思わせない」(同)洗練された商品に仕立てた。

故郷へ錦

それが少しずつ評価を高め、ドイツやフランスなどで商品を置いてもらえるショップが増えていった。評判を聞いた日本の百貨店からの取引の誘いも断り、あくまで海外ブランドsuzusanとして知名度を高めた。

そして14年。村瀬社長は弟の史博氏とともに有松に生産拠点として日本法人を設立、故郷へ錦を飾る。兄はドイツでデザインに専念し、弟が日本で生産や経営全般を担う。今では名古屋市で新規開業したホテルの装飾品に採用されるなど日本での知名度も高まりつつある。suzusanは売り上げの約8割を海外が占めるが村瀬社長は「23年までに日本の売上高比率を5割まで高める」と意気込む。ドイツ生まれの有松絞の異端児が、業界に新風を吹き込む。
(名古屋・永原尚大)

【企業プロフィル】
▽所在地=名古屋市緑区有松3730▽売上高=1億2074万円(20年2月期)▽設立=14年(平26)3月

日刊工業新聞2020年10月5日

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